『珈琲時光』 | エルドラド 「時をかける言魂」 『時かけ』と仲里依紗に魅せられて

エルドラド 「時をかける言魂」 『時かけ』と仲里依紗に魅せられて

ただの戯れ言?!またはエッセイのようなもの。
そしてボクは時をかける。

『珈琲時光』


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【出演】
一青窈、浅野忠信、萩原聖人、余貴美子、小林稔侍


【監督】
侯孝賢



“小津に捧げる21世紀の『東京物語』”

“心落ちつく場所がある。心落ちつく人がいる“




都電荒川線沿線にある鬼子母神でひとり暮らしをしながら、フリーライターの仕事をしている井上陽子。


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そして、神保町の古書店の2代目主人・竹内肇。


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二人は、陽子が資料を探すために古書街を訪れているうちに知り合い、親しくなった。


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肇の親友で天ぷら屋につとめる誠治も交え、3人はとても仲が良い。


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陽子は、無口で穏やかな肇には、なぜか何でも話せてしまう。
物静かな肇といると、不思議と心が落ち着くのだった。


そんな陽子は、昔ながらの喫茶店で過ごすことが多い。


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肇と他愛のない話をしながら、穏やかな時が流れていく……。


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陽子は、両親が幼い頃に離婚してしまったため、親戚に育てられたが、今は高崎に住む実の父親、再婚相手の継母とも良い関係を築いている。


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ある日、実家に帰省した陽子は、両親に告げる。

「妊娠してるの。でも結婚はしない。自分でちゃんと育てる」

相手は、台湾の男性らしい。

両親は‘未婚の母’を選ぼうとする陽子の将来をあれこれと心配するが……。


一方、陽子が好きな肇は自分の気持ちをどうしても伝えられずにいて……。


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東京を舞台に、フリーで仕事をしているヒロインと古書店の二代目の店主のほのかな恋愛模様を軸に、家族との関係を丁寧に紡ぐ人間ドラマ。


‘珈琲を味わうときのように、気持ちを落ち着け、心をリセットし、これからのことを見つめるためのひととき’……小津安二郎監督へのオマージュとして『東京物語』をはじめとする小津作品からインスパイアされた世界観を独自な視点から描いていきます。


オープニング……スタンダードサイズで映し出されるは、伝統ある‘松竹の富士山’マーク。
作品自体はビスタなのに、ここだけは敢えてスタンダード!このこだわり感がたまらない。


そして、ファーストシーン。
部屋で洗濯物を干している陽子。
そこに電話がかかってきて……大家さんから声をかけられて……また洗濯物干しへ……このショットが据え置きカメラ、ワンカット長回しでゆっくりと映し出される。

あまりにもありふれている日常の光景なのにも関わらず、なぜだかグイグイ引き込まれてしまう。

この作品ではこんな風に、普通すぎるくらい普通の光景を延々と撮るワンカット長回しが多用されているのですが(見方を変えれば無駄とも思えるようなカット)それがとても心地良く感じられるから不思議。


また台詞回しも非常に自然で、台詞というよりも‘単なる会話’と言った方が正解かも?
でも、それがまた何とも心地良く響くのです。


ドラマチックな展開は皆無、ストーリーはあってないようなもの、淡々と続く会話……まさに‘小津ワールド’の再現!



台湾、高崎、鬼子母神、神保町、それぞれを自分の居場所として明るい未来を期待しながら生きる女性と、彼女を見守る人たちの姿を……優しく、温かく、美しく表現し、ひとりの女性の何気ない日常を丹念に描写しつつ、その人間模様を淡々と綴られていく。


神保町の古書店街や鬼子母神界隈など、そこに暮らす人々の生活感をリアルに捉えた映像も印象的。



淡々と続く物語の中、ある意味で最大のクライマックスと呼べるのは、法事のために高崎から東京に出てきた両親が陽子の家を訪れるシーン。

母親が持参してきた肉じゃがを食べる陽子。

「美味しい!私が作るとこの味が出せないんだよね」

何となく落ち着かない様子の父親は、そんな陽子の姿を黙って見つめるだけ。

父親は娘の妊娠のことを切り出したいのに、そのキッカケがなかなか掴めず……。

いつ口を開くのか、いつ言い出すのか……重苦しいまでの沈黙と張り詰めた緊張感。

しかし、子供のように無邪気に肉じゃがを食べる陽子の姿を前にすると……父親は言うべき言葉が見つからずに、いつしか黙認へと変化してしまう。

無愛想で不器用だけれど、娘を心底から愛している……古風な父親像を見事に表現しています。

その後、我慢出来なくなった母親が遂に口を開きます。

「あのさ、妊娠のことなんだけど……」

すると、陽子はあっさりと実家で話したのと同じ応えを。
「私、産むよ。結婚はしないけど」

瞬間、黙って頷く父親。
娘を信じているが、どうしても肝心なことを話せないもどかしさが切ない。



神保町、鬼子母神の古き日本の街角や路地、御茶ノ水、有楽町、銀座、高円寺の雑然とした街並み、そして山手線、京浜東北線、高崎線、都電荒川線の車窓風景の映像美も見所です。



陽子を演じた一青窈がメチャメチャいい!

歌っている時の表現力は秀逸ですが、女優としての表現力も素晴らしいものが!

ちなみに……タイトルは『珈琲時光』なのに、陽子が喫茶店で注文するのは、何故かいつも‘ミルク’で、家で飲むのもミルクばっかり(笑)。


その陽子の行きつけの喫茶店として登場するのが~‘エリカ’。

それから誠司が勤める天ぷら屋は~‘いもや’。

どちらも神保町界隈ではお馴染みの店で、エリカは昭和風で落ち着く店だし、いもやの天丼は安くて美味い!

でも神保町の喫茶店では‘さぼうる’が一番好きです……って、ローカルネタですいませんあせるあせる