
【キャスト】
ヤン・イクチュン、キム・コッビ、イ・ファン
【監督・脚本】
ヤン・イクチュン
“愛を知らない男と、愛を夢見た女子高生。
傷ついた二つの魂の邂逅”
友人が経営する借金の取り立て屋で働いているサンフン。
その容赦のない取り立てと暴力は時には仲間にも向けられ、皆から怖れられていた。

ある日、サンフンの父親が刑務所から出所。
幼い頃、家庭内暴力が原因で母と妹を死なせた父に対して強い憎しみを抱いている彼は、苛立ちをぶつけ……毎夜、父を殴りつけるのだった。
そんなサンフンが、ひょんなことから出会ったのが女子高生のヨニ。

暴力的な態度にも怖がらず逆にやり返してくる彼女に、サンフンはどこか惹かれるものを感じていく。

ヨニの家庭も暴力を抱えていた。

母親を亡くし、強権的な父親、暴力的な弟との関係に悩んでいたのだ。
それぞれの境遇から逃避するかのように何度も一緒に過ごすうち……互いの心に変化が訪れる。
「教えてくれ。俺は、どうしたらいい?」
「私を愛して大切にしなよ。そうしたら絶対に幸せになれるから」
互いに安らぎを感じ、暴力と憎しみに支配されていたサンフンの心にも温かい‘何か’が生まれはじめていく。

しかし、二人には哀しい結末が待っていた……。
冷徹で粗暴な借金取りの男が、勝気で男勝りの女子高生と運命的に出会い、互いに過去のトラウマから解放されていく姿を鮮烈に描く人間ドラマ。
強権的で絶対的な存在の父親から逃れられないという似たようなトラウマを抱えた二人が、魂の交流を重ねることで心情が変化していく解放のドラマが強烈に綴られていきます。
ファーストシーン……痴話喧嘩なのか、路上で男が女を殴っている。
そこを通りかかったサンフンは、いきなり男を殴り倒してボコボコにしてしまう。
女を助けたのかとと思いきや、それは違った。
サンフンはすぐに女に唾を吐きかけ、その頬を何度も叩き始めるからだ!
サンフンは、暴力を振るうことでしか人とコミュニケーションがとれない男。
そのため全編に渡り‘殴る’‘蹴る’という行為が続きます。
しかし、ただのバイオレンス映画ではない。
その暴力には、カタルシスのカケラもなく、漂うのは空虚さだけ。
サンフンもヨニも、その元になっているのは‘家庭内暴力’。
愛情の代わりに暴力を受けて育った子供は、暴力でしか人に自分の感情を表現することしかできなくなってしまう。
そんな苛立ちや哀しさが渦巻いているのです。
逃れられないしがらみの中で生きてきた二人の息苦しいまでにパワフルな姿、心に深い傷を抱えた者同士の純愛物語は、痛くて切ない。
北野武と園子温を足して二で割ったようなイメージの(と勝手に思っている)ヤン・イクチュン監督の演出に痺れました!