
【出演】
役所広司、アヤカ・ウィルソン、妻夫木聡、土屋アンナ、阿部サダヲ、加瀬亮、木村カエラ、小池栄子、劇団ひとり、山内圭哉、貫地谷しほり、彦摩呂、後藤ひろひと、國村隼、上川隆也
【監督】
中島哲也
‘子どもが大人に、読んであげたい物語’
昔々……といってもそれほど昔ではないお話。
あるところに病院がありました。
そこは患者さんもお医者さんも看護師さんも全員変わり者。

そんな中、一代で会社を築いた大貫は、とても偏屈なので皆から「クソジジイ」と呼ばれ、嫌われていました。
「お前が俺を知ってるってだけで腹が立つ!気安く俺の名を呼ぶな!」
大貫は、ある日パコという少女と出会います。

ベンチの隣にチョコンと座ったパコ。その手には、一冊の絵本が。
「今日は私の誕生日なの!」
純真な少女であるパコにも意地悪に接することしかできない大貫は、紛失した純金のライターをパコが盗んだと誤解して頬を引っ叩き、泣かせてしまいます。
翌日、大貫は再びパコと出会いますが……何故か大貫のことを覚えてはいません。
パコは事故で両親を失い、彼女だけは奇跡的に助かったものの、事故の後遺症で‘たった1日しか記憶を保てない’という記憶障害を持っていたのです。
医師は悲しげに言う。
「パコちゃんは今日起こった出来事は、明日になれば全て忘れてしまうんです」
その翌日も、何事もなかったかのようにケロッとして大貫に近づいて来たパコでしたが、彼が彼女の頬に触れた瞬間……
「あれ?オジサン、昨日もパコのほっぺに触ったよね?」
「ああ、触った。俺は大貫だ」
「大貫……今日は私の誕生日なの!」
記憶をなくすパコは、毎日が誕生日なのです。

大貫はパコの頬に触れてから絵本を読んであげることが日課となります。
毎日毎日同じお話を……でもパコにとっては初めて聞くお話です。
大貫は、パコの純真な気持ちと接し続けるうちに、今までの自分の生き方に疑問を感じ始めます。
「涙が止まらないんだ。生まれて初めて泣いたから止め方が分からん。先生、教えてくれ……涙はどうやって止めるんだ?」
「簡単です……いっぱい泣けば止まります」
大貫は子供のように声を上げて泣くのでした。
「あのコといると、自分が弱い生き物のような気になる」
「辛いですか?」
「いや、心が軽くなる」
そして自分の残りの人生でパコのために何かをしようと考えます。
彼女の記憶に‘何か’を残すことが出来るかもしれない。
彼女のために‘何か’出来るかもしれない。
何か自分にできる事はないか?
病院の皆に頭を下げ、一緒にパコの愛読する絵本の演劇をしたいと懇願します。

こうして「ガマ王子対ザリガニ魔人」の物語が幕を開けました……。


わがままで孤独な老人と清らかな心を持った少女の交流をシニカルに描いた、爆笑して号泣できるブラック・ファンタジー。
‘病的’な人々が繰り広げるカオス的世界のクライマックスが見どころです。
登場人物たちをCGキャラクターに変身させ、生の演技と連動させていくという……とんでもない、有り得ない映像描写!
病んだ大人たちが天使のような少女パコとの触れ合いで自分の人生を省み、パコに何か‘忘れられない’思い出を残そうとするステキなお伽話でした。
役者陣はアヤカ・ウィルソン以外、全員が元の顔が判別できないくらいのメーキャップをしているため、声を聞くまで誰だか分からない人も?!
特に小池栄子が凄い!
いかつい顔の國村隼の女装姿も衝撃的なものが?
後藤ひろひとの戯曲を大胆にアレンジしての映画化ですが、随所にいかにも後藤さんらしい間の抜けた台詞や、唐突すぎる展開などが活かされている。
(ちなみにこの人の作、演出の舞台『ダブリンの鐘つきカビ人間』は大傑作でした)
後藤作品の常連、山内圭哉が出演しているのも嬉しい。
そして一番の儲け役なのが狂言回し的存在の阿部サダヲ。
弾けまくりの爆笑演技の連続ですが、最後に泣かせる台詞を。
「大貫さんは、パコちゃんの心の中に自分を残そうと必死だったんです。それと同時に私たちの心の中にも、大貫さんのことが強く残りました」