
【出演】
草剪剛、加瀬亮、マイコ、広田亮平、堤真一、宮永リサ、黒川芽以、津田寛治、田中要次、森下能幸、三浦友和、渡辺えり子、松金よね子、洞口依子、野村佑香、尾野真千子、伴杏里
【監督】
石井克人
‘見えない目で、あなたを見つめていた’
新緑の季節。
目の不自由な按摩の徳市と福市が、山の温泉場に向う道を歩いている。

「いい景色だなぁ、まるで見えるようだよ」
徳市は、前を歩いている人間の数や性別までピタリと当てる鋭い勘の持ち主。
福市は、さほどの勘は持ち合わせてはいないが、徳市のいい相棒であった。
ふたりは温泉道で目明きの人間を何人追い抜けるかを楽しみにしていたが、その日はハイキングの大学生4人組を追い抜けず、悔しい思いをしていた。
「目明きの連中を追い抜くのは気分がいいが、あの学生らは早くて無理だったな。悔しいったらありゃあしない」
「徳さん、今日は何人くらい追い抜いたかい?」
「20人てとこだな」
その横を1台の馬車が駆け抜けていく。
それには東京から来た女性・三沢美千穂、大村真太郎、真太郎の甥・研一が乗っていた。

徳市たちが温泉場の按摩宿泊所に落ち着くと、宿屋・鯨屋から呼び出しがかかる。
徳市が療治に向うと、お客は美千穂だった。
「奥様は、あれでございましょ?東京の方でございましょ?」
「奥様に見えるかしら?」
「失礼しました!お嬢さんでしたか」
徳市は、何故かソワソワと落ち着かない様子の彼女に対して淡い恋心を覚える。
一方で、次の客が道中で追い抜けなかった大学生たちだと知ると、昼間の悔しさを晴らそうと目一杯の力を込めた荒療治を施す。
「イテテテ、力が強すぎだよ、按摩さん」
「なになに、お若いんですからこのくらい」
翌日、彼らはあまりの足の痛さに歩くこともままならず、再び鯨屋に引き返す羽目に。
「あの按摩のお陰で、酷い目にあった」
徳市は美千穂にまた療治を頼まれ……たまたま表に出ていた彼女はやって来た徳市と道ですれ違うが、徳市の勘を試そうと川原へ隠れてしまう。

そこで前の日に馬車で乗り合わせた少年・研一と再会し、仲良くなった美千穂は、研一を自分の部屋へ連れていき……。
その頃、宿では大学生たちの財布が盗まれたと大騒ぎに!
宿の主人は、財布がなくなった時分、宿にいたのは美千穂だけだったと徳市に話す。
「まさか、あのお方が?」
そして物語は意外な方向へと進んでいき……。

ピュアな心の持ち主の按摩の青年と、ちょっとミステリアスな雰囲気の美女とのほのかな恋愛模様をユーモアを交えて描く人間ドラマ。

1938年公開の清水宏監督作品『按摩と女』を‘完全カバー’。
脚本も構図もオリジナルを忠実に再現。
(旧作の予告編も収録されているのですが、画も台詞回しも全く同じ)
石井監督曰く、
「主観を入れるのではなく、清水監督のオリジナル版で足りなかったディティールを埋めて原点の完成度を高めることを目指した。それは‘リメイク’ではなく‘カバー’である」
現代に製作されたにも関わらず、昭和初期の匂いがプンプン漂ってくるような……ノスタルジックな雰囲気が満載。
徳市役の草剪剛の目の見えない演技は、リアリティがあり秀逸!
福市役の加瀬亮の飄々とした演技も見応えがあります。
個人的には黒川芽以と伴杏里が出ているというところに注目して観ていましたが……二人とも出演シーンは僅かで、ちょっとガッカリ。