
【出演】
竹中直人、原田知世、段田安則、雅子、中島唱子、水田芙美子、内村光良、大谷直子、久世光彦、中島みゆき、三浦友和、風吹ジュン、伊佐山ひろ子、原ひさ子、片桐はいり、大森南朋、三宅伸治、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、谷中敦、原田郁子、北川悠仁、田島貴男、斉藤和義、浜崎貴司、高野寛、忌野清志郎、廣木隆一、スチャダラパー
【監督】
竹中直人
‘サヨナラから はじまることが たくさんあるんだよ’

ある春の日、海岸沿いの病院に勤める医師・佐々木正平の元に、高校時代の同級生であり憧れの人でもあった笈川未知子が子宮がんを患って入院してくるが、病状は芳しくなかった。
「思い出してくれましたか?僕のこと」
そう問いかける正平に、曖昧に首をかしげる未知子。他のクラスメイトのことはよく憶えているのに、なぜだか正平のことだけは思い出せないらしい。
「記憶が曖昧で……」
「そ、そうですか……」
江ノ電の車内、正平の前の席の女子高生が、携帯で友だちと話している。
思わず、
「車内での携帯電話ご遠慮下さい」
ところが、見渡せば車内のほとんどの乗客が携帯で話し込んでいて、ばつの悪い思いを。
そして下車寸前、その女子高生から“膝カックン”を喰らい車内で転倒してしまう。
「車内で寝転ぶのはご遠慮下さい」
これが、まなみとの出会いだった。
「おじさん、火星人だよね?援交しない?」
「……あのさ、いまクラス全員の人、憶えてる?」
「全員はわかんない」
「憶えてないのは、どういう奴?」
「タイプじゃない奴」
「…………」
「寂しくなったら、連絡して。バイバイ」
正平にはもう一人、長い付き合いになる居酒屋の女将・聖子がいる。
店を閉めた後、二階に上がり込み、聖子の指圧で背骨の軟骨を鳴らしてもらうのが正平にとっての安らぎの時間だ。
だが、仕事帰りに店に寄っても未知子のことが気にかかる正平。
「同級生で憶えてない奴いるか?」
一方の未知子にも、フランスで出会い、帰国後一緒に暮らし始めた長年の恋人・雅夫がいた。
彼は今をときめく人気スタイリストだ。
お見舞いにやってきた雅夫が、正平のことを“納豆菌”呼ばわりするのを聞いて、突然高校時代の記憶が蘇る未知子。
「わっ、思い出した!佐々木!“ささ菌”って呼ばれてた。女子は誰も近寄らなかったと思う!だめだめ。あくまでも憶えてないことにしとこ」
浮気性の雅夫の、現在の愛人は、未知子の友人でアンティーク・ショップを経営するあき子。未知子の作るガラス細工のランプを売るあき子の店で、二人は逢瀬を重ねていた。
献身的に未知子に治療を施しながら、なんとか自分のことを思い出してもらおうと試みる正平。
「あなたの家のトイレの窓から見える八つ手の葉っぱ」
「何で知ってるの!?」

高校時代、一度も口をきいたことがないくせに、正平は下校時に未知子のあとをつけ、未知子の家の前で急に腹痛になり、未知子の母に頼んでトイレを借りたことまであったのだ。
「まだ思い出しませんか?」
「…………」
未知子は無言のままノートにこう書いて見せる。
《しつこくされて不気嫌なんです》
「話したくないってことですか?」
ペンを奪った正平は《気》を《機》に直して未知子に返す。
《成積良かったはずなのに》と正平。
《積》を《績》に直す未知子。
《医者のくせに》
思わず微笑みあう二人。
病院のレントゲン室。
正平は後輩の前田と未知子のレントゲン写真に見入っているが、病状は相変わらず良くないようだ。
「俺の人生に無理なんて言葉はない。俺が絶対に治す。最初で最後の恋だ」
高校時代からの未知子への思いを語る正平に前田が言う。
「話してあげたらどうです?先生が二年前に大腸がんを克服したってこと」
一緒に病気と闘っていこう、という気持ちを込め、正平は勇気を出して未知子にガンを告知した。
ショックを受け、うなだれる未知子。
「赤ちゃん出きちゃった。私、産むから」
雅夫にいきなり切り出すあき子。
お見舞いに行った際、未知子から、もしものことがあったら雅夫の面倒を「お願いしようかな」と言われた彼女は、雅夫を試すように告げたのだった。
動揺して、しどろもどろになって出て行く雅夫。
「うそぴょ~ん」
と寂しそうに笑って、その後ろ姿を見送る。
深夜……未知子のことが気になって眠れない正平は、そっと病室を訪ねると……未知子も、やはり眠れないでいた。
病室に持ち込んだ自作のランプの灯を見つめながら、幼い日の家族の思い出を語る未知子。
ランプの明かりに指をかざして、カーテンに指人形を映す正平。
「これは?」
「キツネ」
「これは?」
「カニ」
「これは?」
「何です?」
「毛が三本。佐々木正平。“ささ菌”って呼ばれてました~」
楽しそうに笑い合い、二人の距離が少しずつ縮まっていく。
化学療法が効き、病巣が小さくなった未知子は手術できる状態にまでなった。
「小さくなってる!見てみろ、前田」
「これなら手術も可能ですね」
「手術は俺がやる」
そう言い切る正平に、前田が心配そうに言う。
「先生、少し休まれたほうが。この前の血液検査……自分の体のこともきちんと考えてくれないと」
「大丈夫だよ。俺は自分の命を懸けてでも彼女を治す」
「でも……」
「いいか、俺の体のことは絶対に誰にも言うなよ。もし言ったら、お前の舌を噛み切るからな!」
「どうやって?」
“このランプは先生に……。お世話になりました”との書置きを残し、未知子が一時退院した。
「お世話になりましたって……まだ終わっちゃいないよ……」
そのランプを携えて公園のベンチで物思いにふける正平の隣りに、通りかかったまなみが腰を下ろす。
ランプを陽にかざし、その美しさに、
「愛することは長い夜に灯された美しい一条のランプの光だ」
と詩の一節を呟くまなみ。
しかし、サッカーに興じていた少年たちのボールが直撃し、ランプは粉々に砕け散ってしまった!
次の瞬間、体に激痛の走った正平は、その場に倒れこんでしまう。
「おじさん!おじさん!」
病魔は確実に正平の肉体を蝕んでいたのだ。
そうとは知らない未知子は、夜勤明けの正平を海に誘い出した。
ランプの材料となるガラスのかけらを正平と一緒に集めようと思ったのだ。
死ぬことへの恐怖に怯える未知子に、
「あなたは長生きしなくちゃだめだ。あなたは思い切り長生きして、思い切りたくさんのランプを作るんだ」
「私、今から先生を50年信じ続ける。そして51年目で死ぬわ」

手術の前に未知子は……
「これからの50年……私と生きてもらえませんか?先生がいないと生きていけなくなりました。先生と生きていきたいんです……先生と」
未知子の手術は無事に成功した。
しかし、程なくして正平は……。
安らかに眠る正平に未知子は語りかける。
「あなたのしつこさが私を救ってくれた」
そこに前田が、
「先生の最後の言葉は……‘八つ手の葉っぱ’……でした」
未知子は正平と訪れた海にひとりで足を運ぶ。
‘先生に救ってもらったこの命、大好きです’
‘僕は、ずっとずっとあなたにこだわるんだ’

命を懸けて、死ぬまで初恋を貫いた男性の姿をコミカルに、そして切なく描いた……すっぱくて甘い珠玉のラブ・ストーリー。

とても印象に残ったのが、正平と未知子が初デートで海を見に行くシーン。
砂浜に座って、二人は初めてじっくりとお互いのことを語り合います。
すると突然、未知子が、
「トイレ行きたくなっちゃった」
「あ、俺も」
しかし当然ながら近くにトイレなどない。
正平は、
「よーし、自然に還るか!」
と、やおら走り出し海に向かって立ちション。
その様子を笑って見ていた未知子は……パッと腰を下ろすとスカートをめくって……。
その二人の姿を俯瞰のカメラで捉えた映像が素晴らしく美しい!
竹中直人と同級生(!)という設定のヒロインを演じる原田知世が、何とも可憐で凄く可愛い。
デビュー作の『時をかける少女』での可憐さを40代になっても変わることなく保ち続けている原田知世……ステキです!