
【出演】
オダギリジョー、香川照之、伊武雅刀、新井浩文、真木よう子、木村祐一、ピエール瀧、田口トモロヲ、田山涼成、キタキマユ、河原さぶ、蟹江敬三
【監督・原案・脚本】
西川美和
‘あの橋を渡るまでは兄弟だった’

故郷を離れ、東京で人気カメラマンとして活躍する弟・早川猛。
母親の一周忌で帰郷した彼は、父との折り合いが悪い。
「カメラマンだか何だか知らないが、親の葬式にも出なかった奴が偉そうな口を叩くな!」
「そんなこと、あんたに言われる筋合いはねえよ!」
「何だと、この野郎!」
しかし温和で心優しい兄・稔とは良好な関係を保っている。

そんな折、稔が切り盛りする実家のガソリンスタンドで働く幼馴染みでもある昔の恋人・智恵子と再会。
稔と智恵子が仲良く話している姿を見た猛は、複雑な心境に。
その夜、家まで智恵子を送る際……、
「兄貴とはいい雰囲気だね。俺、嫉妬しちゃったよ」
「…………」
ずっと猛のことを思っていた智恵子。
こうして二人はベッドを共にし……。
夜遅く猛が帰宅すると稔はまだ起きていた。
智恵子と寝た後だけに、何となく気まずい。
「居酒屋にでも寄ったの?」
「う、うん……まあ」
「智恵ちゃん、ああ見えて激しく絡むだろ?」
「……あ、あぁ、結構飲むんだね。驚いたよ」
「…………」
翌日、兄弟と智恵子の3人は渓谷へ遊びに行く。
智恵子が見せる「一緒に東京へ行きたい」という態度をはぐらかして、猛は吊橋を渡った先にある離れた場所で自然の写真を撮っていた。
‘猛さんのそばにいたい’
智恵子は稔に、
「わたしも吊橋渡ってみたい」
「よしなよ、危ないよ」
「大丈夫。稔さんはここで待ってて」
「でも……」
猛がふと吊橋を見上げると、橋の上でもめている様子の稔と智恵子の姿が……何事かと吊橋へと足を向けて……。
「何やってんだよ?」
吊り橋の上で蹲り、ガタガタと震えて混乱している稔。
「どうした!落ちたのか!?」
「俺が智恵ちゃんを……俺が……」
「大丈夫だよ、大丈夫だから!」
「俺が……」
智恵子は渓流にかかる吊橋から落下していた。
その時、近くにいたのは稔だけ。
川に落ちて流された智恵子は……数時間後、遺体となって発見される。
程なくして稔は殺人容疑で逮捕され……。
あれは事故だったのか?殺人なのか?
稔は「自分が落とした。自分のせいで彼女は死んだ」と自白。
しかし、猛は稔が殺人を犯したとはどうしても信じられない。
ところが拘置所の稔は面会に来た猛に対し、
「何で俺ばっかりなんだよ。お前と俺は、何でこんなに違うんだよ!」
「何、言ってんだよ」
「お前は人殺しの弟になるのが嫌なだけなんだろ!」
「ふざけんな!」
稔は感付いていた。
猛が智恵子と寝たことを。
裁判が進むにつれ……兄を庇う猛の心はゆれていき……。

そして証言台に立ち最後に選択した行為とは……。

「僕は、僕のもとの兄を取り戻すために人生を賭けて本当のことを話したいと思います」
こうして猛の口から驚愕の事実が明らかにされていく。
そして7年後……刑務所から出所した稔は、ひとり淋しくバスを待つ。
そこに走ってきた猛は絶叫する!
「兄ちゃん!ウチに帰ろう!」

愛情と憎しみが複雑に入り交じった兄弟の葛藤、本音と建前、明と暗の間でゆらぐ心、それと同様に揺れ動く人と人の関係の不確かさを綿密に描写したシリアスドラマ。
ゆれる吊橋のように不安定な心と絆の先に一体何があるのか……兄弟は家族の絆や絶望からの再生を図ることが出来たのか。
兄の心の暗部に触れて湧き上がる感情を時に繊細に、時に激しく演じるオダギリジョー。
感情を抑えつつも僅かな表情と身体の動きで心のゆらぎを表現する表す香川照之。
この二人の演技が素晴らしい!!