「(目覚めて)……???」
居間のテレビでは‘1974年3月に起きたバス転落事故’を振り返る番組が流れている。
コップを手に入ってきたあかりは、興味なさそうにテレビを消して……コップの水をゴクゴクと一気に飲み干す。
病室のベッドで眠り続けている和子。
その眼が徐々に開いて……。
和子「……!」
和子を優しく見下ろす深町の姿。
封筒からラベンダーを取り出し、和子の枕元へ。
和子「伝言、届いたのね……」
深町「ああ」
和子「……深町一夫として来てくれたんだ……」
深町「……」
和子「……」
深町「……ありがとう」
和子「……」
深町「君によく似てる」
和子「……」
深町「……」
和子「……」
深町「またいつか……未来で」
そっと和子の額に手を翳す。
病院の廊下ですれ違うあかりと深町。
記憶を消されているあかりは、深町のことなどわからない。
病室に入ってきたあかり、と……和子の眼が開いていることに気付き、
あかり「……は!?お母さん!?お母さん!お母さん!」
急いでインターホンに、
あかり「は、母が目覚めました!」
和子「……」
あかり「お母さん!わかる!?あかり!」
和子「あかり……」
あかり「……(安堵の笑い)」
病室の外で。
医師「念のためMRI検査をしますが、この状態でしたらもう大丈夫でしょう」
あかり「ありがとうございます!」
病室で。
和子「あかり」
あかり「ん?」
和子「何だかね……懐かしい匂いがするの」
あかり「懐かしい匂い?」
和子「うん」
あかり、鼻をクンクンと。
あかり「……ん?」
和子の枕元にあるラベンダーに気付いて手に取り、
あかり「……これ?」
和子「ラベンダーだわ」
あかり「誰が置いたんだろ?……(ラベンダーを鼻に近付け)でも、いい匂い……ほら(和子の鼻にも近付けて)ヘヘッ」
その時、微かにカチャッという音が。
あかり「ん?」
制服のポケットから謎のフィルムケース。
あかり「ん……?」
居間で、フィルムケースを見ているあかり。
表には『光の惑星』のタイトルシール。
そこに電話が。
あかり「はい、芳山です」
長谷川「長谷川ですが」
あかり「……!」
長谷川「あかりか?」
あかり「うん」
長谷川「お母さんは?」
あかり「意識が戻ったからもう大丈夫」
長谷川「……あ、そうか……」
あかり「うん」
長谷川「……」
あかり「……あ、あの……」
長谷川「うん?」
あかり「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
公園のベンチのあかり。
そこに映写機を下げて、ひとりの中年男性が歩み寄ってくる。
長谷川である。
長谷川「元気か?」
あかり「……(頷く)」
長谷川「お前、8ミリなんか観んのか?」
あかり「……うん」
長谷川「監督は?」
あかり「……(首を傾げ横に振る)」
長谷川「タイトルは?」
あかり「……光の惑星」
長谷川「……!?」
あかり「……どうしたの?」
長谷川「……まぁ、よくあるタイトルか。古いダチと昔、撮った作品と同じタイトルなんだ」
あかり「……?(頷く)」
長谷川「……」
あかり「あ、じゃあ、映写機お借りします」
と重そうに映写機を持つ。
長谷川「ああ、持てるか?」
あかり「うん、大丈夫」
長谷川「そうか?」
あかり「友達と車で来てるから」
長谷川「あ、そうか」
あかり「……」
長谷川「……じゃ……」
あかり「じゃ……」
長谷川、背中を見せて歩き去っていく。
その背中を淋しく見つめて、
あかり「ありがとう!」
長谷川、ちょっとだけ振り返り、ぶっきらぼうに手を上げて応える。
ゆっくりその場を離れるあかり。
部屋にはあかり、本宮、親友の女の子。
本宮は8ミリ映写機をセッティング中。
親友「本宮、あんたそれホントにわかんの?」
本宮「大丈夫だよ。よしよしよしよし!」
あかり「消すよ」
あかりと親友、スクリーンの前に腰を下ろし。
本宮「はい、いくよ」
あかり「OK!」
‘カタカタカタ’懐かしい音を立てながら映写機が回り始める。
スクリーンに映し出される8ミリの粗い映像。
~タイトル『光の惑星』~

本宮「お?」
親友「なに?これ」
あかり、スクリーンを一心に見つめる。
次々と流れるサイレントフィルム。
初めて観たはずなのに、どこか懐かしい映像。
陳腐なセット、役者の拙い演技……でも何故だかとても愛おしい映像。
‘未来都市を飛び交う未来の車’
‘その未来都市がグラグラと揺れる’
‘未来服を着た男と女が見つめ合う’
‘床に倒れ込む男と女’
‘壁に描かれる桜の絵’
~字幕~
‘最後の桜は描かないで’

そして……並木道を歩く白いコートを着た女の子のバックショット。
その女の子の淋しげな後ろ姿は……ゆっくりと、ゆっくりと小さくなり……。

~字幕~
‘監督 溝呂木涼太’
フィルムが終わる。
親友「なんだ、これ?全然、意味わかんない」
あかりの眼からは次々に涙が溢れ出て……。

親友「……!?あかり?……なんで泣いてんの?」
あかり「……なんでだろ……わかんない……」
本宮、フィルムケースの中に収められていた一枚の紙切れに気付き、あかりに手渡す。
本宮「これ、中に入ってた」
あかり「……?」
あかり、静かにその紙を広げると……。
‘未来の桜を見る君へ’
桜が満開の並木道。
涼太との思い出が沢山詰まった並木道。

あかり、桜を見て……。

記憶は消えても涼太への想いは決して消えていない……あかり。

笑顔で歩き出す……。
きらめく明日に出会うために……。
