涼太「ゴテツ~!涼太。ゴテツー!?」
あかりは廊下をウロウロと。
「ウワッ!ウアッッ!ウワッ!ウワッ!」
あかり「……!」
突然の悲鳴にいったい何事かと声のした炊事場を覗くと。
あかり「キャッ!!え!?え!?」
素っ裸で流しに入り、気持ち良さそうに身体を洗っているゴテツ。
涼太「おお、なんだ~ここか」
ゴテツ「おお、涼太!」
あかり、泳ぐ視線、ドギマギしながら、
あかり「どこのウチもこうなの?」
あかりのことなど全く気にもせず、平然と身体を洗い続けるゴテツ。
ゴテツ「なんだ?お前の女か?」
涼太「あ、いや、イトコ……あかり」
あかり「(伏し目がちで)……どうも……」
ゴテツ「あかり。いい名前だな。あかりがなきゃあ、いい画は撮れないっつって!ハハハ」
あかり「……はぁ……ていうか、服、着てください……」
ゴテツ「え?」
涼太「こいつがカメラマンやってくれてるゴテツ」
あかり「……ゴテツ?」
涼太「撮影機材を買うために賭け麻雀して、5日間徹夜で打ち続けたからゴテツ!」
ゴテツ「ハハハ、よろしくな」
あかり「はあ……」
部屋で酒を飲みながら映画談議に盛り上がる涼太とゴテツ。
話に入れないあかりは、傍観。
カメラ移動のジェスチャーをした涼太、躓いた瞬間、テーブルの足におもいっきり爪先をぶつけ、
涼太「イテッ、あ、イテー!」
その間抜けな姿に屈託なく笑うあかり。

そして……。
泥酔して罵声を浴びせ合う涼太とゴテツ。
あかり「……(怖い)」
ゴテツ「こんな女の描き方で起つかい!」
涼太「あ!?」
ゴテツ「俺のチ○ポは起たねえぞ!起たしてみろ!」
涼太「起つ!起つ!起つ!」
ゴテツ「全然、起たねえんだよ!」
あかり、その下品すぎるくらい下品な会話に思わず耳を塞ぐ。
そして……。
タバコを吹かすゴテツに寄りかかって大号泣する涼太。
アラレをポリポリ食べながら、
あかり「……(呆れている)」
次には……。
何が可笑しいのか嬌声を発しながら大笑いのふたり。
あかり「……(完全に呆れている)」
その時、ゴテツが手にしたビールが大切なカメラの上に降り注ぐ。
それに全く気付かないゴテツ。
あかり「あ~!あ~!あ~!あっ!」
ゴテツ「……!?うわ~!俺のカメラ!カメラ!あ~~!カメラ!カメラ!」
あかり、壁に掛けられているタオルに手を伸ばし……と、洗濯バサミに吊された一枚の写真を見て「……!?」
それは和子のスナップ写真であった。
涼太「拭くモノ~拭くモノ~」
ゴテツ「早く!あーー!カメラがー!」
あかり「涼太、涼太、これ」
タオルを放り、それからその写真を手にして。
あかり「……」
高校の校門前。
下校してきた和子に、
和子「……!」
あかり「……(会釈)」
和子「……」
喫茶店のあかりと和子。

あかり「何か思い出せましたか?……」
和子「……力になれなくてすみません……でも私に関係していることなんですか?あの写真の男の子」
あかり「あぁ、まぁ……かなり関係してるって言うか」
和子「……?」
あかり「あ、和子さんはどうして横浜の高校に?」
和子「父の仕事の都合もあったんですが、私、薬学部に進みたくて、それで理系の強い私立を選んだんです」
あかり「あ、それはいつ頃から目指してるんですか?」
和子「中3になった春に突然、薬学の勉強をしなきゃって半ば使命みたいに感じて」
あかり「……その頃からか……あ!それともうひとつ聞きたいことがありまして……あの、これ、知り合いの家で見つけて……」
ゴテツの部屋で見つけた和子の写真を差し出す。
和子「あ?これ長谷川さんが撮ってくれた写真だわ。友達の家庭教師してる人……知ってるんですか?」
あかり「?……長谷川!?」
和子「ええ、長谷川政道さん。あ、ゴテツさんって言った方がわかるかしら。みんなにそう呼ばれてるから」
ゴテツ=長谷川政道……。
あかり「……!!」
駅の改札から出て来るあかり。
大雨の中、駅に背を向け傘を差して佇む涼太。

あかり「……(嬉しさに笑みがこぼれて)」
涼太、まだ気付いていない。
あかり、走り寄り後ろからドーンと体当たりして、
あかり「ンフフッ、何やってんの?」
涼太「……」
あかり「……!?」
涼太、無言で歩を進める。
黙ってついて行くあかり。
相合い傘で雨の街を……。
コタツで向かい合うあかりと涼太。
あかり「ね?涼太ん家って、どんな?」
涼太「ん?俺ん家?」
あかり「うん」
涼太「両親と妹の四人家族」
あかり「ふぅん」
涼太「で、親父が秋田で印刷工場やってる」
あかり「へ~じゃ後継いでって言われないの?」
涼太「うん……まあ、ホントは継いで欲しいって思ってるんだろうけど……」
あかり「じゃあ、応援してくれてるんじゃん!いいお父さんだね」
涼太「……あ?君のウチは?」
あかり「わたし?」
涼太「うん」
あかり「……わたしは……」
涼太「……どしたの?」
あかり「……ううん……あ、いや……いや、わたしね、お父さんの記憶がほとんどないんだよね」
涼太「……」
あかり「わたしが小さい時に、お母さんとわたしと置いて出てっちゃった」
涼太「……」
あかり「まぁ、お母さんがずっとそばにいてくれたし、元々いないも同然だから、淋しいって思ったことはなかったんだけど……いたらどうだったんだろうなぁっていうのは……いっぱい想像したし……考えてたよね……」
涼太「……」
あかり「あ!なんかゴメンね、なんか、こんな話しちゃって」
涼太「……」
あかり「……」
涼太「……(あかりの食べているポッキーを差し)あ、これ貰っていい?」
あかり「いいよ」
翌朝。
和子が貯めていた昭和47年の100円玉を全てコタツの上に重ね並べ、
あかり「41……200円か……これで出来ること……」

涼太、新聞を広げて、
涼太「な?」
あかり「ん?」
涼太「これならずっと目に触れやすいだろ?未来にも残せるし」
と尋ね人欄の記事を指す。
あかり「え?」
涼太「いや、もしかしたら深町も未来人ってこと有り得るだろ?……この時代に存在してないとしたら」
あかり「おぉぉぉ~~あ、なるほどね~あぁぁぁ……いや、でも有り得ないでしょ……それは」
涼太「お前が言うなよ……」

新聞社のロビーで、担当者を前に真剣な表情のあかりと涼太。
涼太「4万円で何とかお願いできませんか!?」
担当者「何度もお話している通り、一段二十文字の枠で5万、これは決まってるんです」
涼太「そこを何とかお願いします!急を要してるんです!じゃないとこのコの未来に重大な影響が!」
あかり「え?……あ、あ!そうなんです!わたしの未来に……わたしの未来?」
涼太「あながち間違ってないだろ」
担当者「……?」
涼太「お願いします!」
あかり「お願いします!」
担当者「……わかりました。4万でやりましょう。(小声で)今回は特別、内緒ですからね」
涼太「ありがとうございます!」
あかり「ありがとうございます!」
担当者「いいからいいから、ね」
涼太、ニコニコしながらインスタントラーメンの袋を破る。
そして……。
コタツに鍋を運んできて蓋を開けると……イロイロな具が満載の豪華ラーメン!?
あかり「ウォッ~~~!(はしゃぎ笑い)凄いじゃ~ん!」
涼太、卵をオタマに乗せ。
あかり「お~~おぉ……(ワクワク)」
涼太「(得意げに)そしてこれを」
あかり「ん」
卵をご飯の上にかけて、
涼太「混ぜてからどうぞ」
あかり「ウヘヘヘ~!じゃあ、これを」
涼太「……(ニコニコして見つめ)」
卵かけご飯を一口食べ、
あかり「ン……うまい!エヘヘヘ」
涼太「(満面の笑み)……」
あかり「ラーメン、ラーメン!」
涼太「次はラーメンを」

大学の屋上で8ミリ映画のロケ中。

脚立の上からピアノ線に吊された‘トランシーバーのようなモノ’を垂らす後輩部員。
涼太「トミ、トミ!大丈夫!?」
後輩部員「めちゃめちゃ怖いんですけど」
涼太「複合型通信機器装置、頼むよ!」
後輩部員「はい」
涼太「もっとさ、無重力なんだからフワッとフワッとね!」
指示を出し続ける。
真剣な顔でカメラを覗くゴテツ。こちらも後輩に指示を出している。
その周りに数名の部員スタッフ。
あかり、その傍らで和子の写真を見て……ゴテツの顔を見て……。
涼太「じゃあ行くよー!本番!よーい、スタート!」
宇宙服を着た門井とナツコが演技を開始。
演出する涼太。
カメラのゴテツ。
あかりはレフ板係を務めている。
涼太「ドカーーン!」
脚立とカメラバッグを持ち涼太が階段を下りてくる。
あかり「涼太、涼太」
バッグを受け取る。
涼太「おお、ありがとね」
ふたりのそのやり取りを見つめるゴテツ。
重いバッグを持ち階段を下りるあかり。
ゴテツ「あ、貸して貸して、ほら」
とあかりの持つバッグを手にする。
あかり「あぁ、ありがと」
ゴテツ「……イトコなんて嘘だろ?」
あかり「え?どうして?」
ゴテツ「見てりゃあ、わかる」
あかり「……」
ゴテツ「俺よ、この作品撮り終えたら奨学金でアメリカに行くんだ。カメラマンの修業で。あいつの面倒、しばらく見れないから頼むわ」
あかり「……行かないでって言ったらどうすんの?」
ゴテツ「ん?」
あかり「……彼女が行かないでって言ったらどうすんの?」
ゴテツ「……?」
あかり、和子の写真を手渡す。
ゴテツ「……そんなこと言うワケがない」
あかり「でも、もし言ったら?」
ゴテツ「その前に独りで行ってこいって言うだろうな。キツいんだよ、こう見えて。行かないでじゃなくて行けっつって、背中蹴られるよ、これ」
あかり「……」
涼太の声「ゴテツー!ちょっと来て!」
ゴテツ「んー?」
涼太の声「このシーンなんだけどさ、ここでカメラを……(撮影について話し続ける)」
あかり「……」
あかりに写真を返し、
ゴテツ「あ?どこ?」
涼太の元へ。
あかり「……」
部室での撮影。
衝立で仕切られたセットに白の未来服の門井、反対側にピンクの未来服のナツコ。
門井「地上に出て直接、通信データに接続するしかない」
ナツコ「本気なの!?ヒロ」
門井「どうせ死を待つくらいなら悔いの残るようなことはしたくない!」
ナツコ「死ぬの?私達!いや!」
壁をバンバン叩くと……ボコッ!!
セットの壁に大きな穴を開けてしまう。
涼太「あーーー!あーーー!カット!カット!カット!ちょっ!あー!」
ゴテツ「……(呆然の笑い)」
あかり「……(笑いを抑え切れない)
撮影は進み……。
壁に桜の絵を描く門井。
そして窓越しに顔を見合わせるふたり。
門井「ハル」
ナツコ「さようなら……」
ふたり、バタッと床に倒れ込む。
……………静寂。
涼太「カット!!」
カチンコの音。
笑顔でOKサインのゴテツ。
涼太「……OK!OK!」
後輩部員「先輩、全編終了でいいですね?」
涼太「……終了ーーー!お疲れ様ーー!」
クランクアップの瞬間、部員の間から喚声、拍手。
涼太「ありがとうー!ありがとうー!」
あかり「(笑顔で拍手)……!?」
入口からその様子を笑顔を浮かべて見ている和子。
和子「……(あかりの視線に気付き)……(会釈)」
外に出たふたり。
あかり「和子さん……もし……ゴテツさんがあなたを置いて遠くに行くって言ったらどうする?」
和子「……また変な質問ね。それってアメリカのこと?」
あかり「あ……ん、それ以外でも……」
和子「頑張ってきて欲しい。彼がやりたいってことなら応援したいから……なんて、ちょっとだけ強がりも入ってるけど……」
あかり「……好きなんだ?」
和子「……うん……」
あかり「……」
そこに来る涼太とゴテツ。
ゴテツ「(和子に気付き)……」
和子「この後は?」
ゴテツ「ん?備品返しに」
和子「一緒に行ってもいい?」
ゴテツ「いいけど機材屋だよ」
和子「じゃあ、ついてく」
ゴテツ「うん」
和子、あかりに笑顔を向けるとゴテツに寄り添いついていく。
裏門を出て行くふたりの後ろ姿を見つめるあかり、涼太。
あかり「……70年代の男ってめんどくさっ」