会社に着くと、ボクの隣のデスクは無人…Tの野郎(後輩)また遅刻か?
そして10分後、Tが息を切らして駆け込んで来た。ウワッ、凄い汗!
するとすかさず粘着質の上司が「T君、ちょっと」…またネチネチ始まるな、こりゃ。
ボクはそっと聞き耳を立てた。
「また遅刻か。これで何回目かな?」
「は、いや、えぇと、そのぉ…はい」
「つまり咄嗟に答えられないくらい遅刻してるってことかな?」
「いや、あの……」
「どうしてしょっちゅう遅れるのかな?朝起きれないのかな?どうなのかな?」
この「かな?」って言い方、何かイラッとする。
「理由は?」
「はぁ、その…つまり、あの…」
「朝どうしても起きれないのなら、いっそのこと会社に寝泊まりしたら?」
「……」
「どうして遅れるのか、その理由を聞かせてほしい」
決して声を荒立てず静かに詰問する様は、逆に不気味だ。
「はあ、あの~ゲ…いえ、あの…何でもありません」
「ゲ?」
ゲ?…ゲ?…まさか、こいつゲイバー通いでもしているのか?
「すいません!ゲームをやっていて、それで寝るのがそのぉ…」
それが理由かい!お前は子供か!
「ゲ、ゲーム?」
まさかのカミングアウトに、冷静な上司も思わず声が裏返った。
「いえ、あの、すいません!」
「……」
これにはさすがに返す言葉を失ったようだ。
「と、とにかくもう二度と遅刻はしないように。ゲームは自重しなさい」
「はい!申し訳ありません!」
なんかこの空間が職員室に思えてきたよ。
Tはスゴスゴと自分のデスクに戻ってきた。
「お前、マジなの?ゲームやってて寝坊するって」
「はあ…恥ずかしながら」
一応、恥ずかしいとは思っているのな。
「でもそういう経験ないですか?」
「ん?オレ、ゲームはしないから」
否、でも学生時代にはあったな。寝る間どころか、食事をする間も惜しんでゲームに熱中していた時期が。
ふと気が付くと空が明るくなっていて、慌てて寝るみたいな。
で、朝起きれなくて結局は講義をサボるってパターンはよくあった。
しかしそれは学生だから許される特権(?)であって、社会人になったら改めないとダメっしょ! こいつは、どうもまだ学生気分が抜け切っていないようだ?!
「お前、今度遅刻したらマジでヤバいぞ」
「はい。当分ゲームは自重します」
当分かい!
「どうせならさ、ハードもソフトも全部処分しちゃえば?」
「と、とんでもないですよ!命の次に大事なモノなんですから」
命の次って…大袈裟な。
「先輩だって、桃井はるこのCDを処分しろって言われても無理でしょ?それと同じですよ」
うん、それは絶対に無理だ…って、納得する自分も自分だが(-.-;)
因みにこいつはアニメ&声優関係にも詳しく、会社の中で唯一(?)モモーイのことを知っている愛すべき(?)人物だ。
「とにかく明日から気をつけろよな」と先輩風を吹かせて注意しておいたのだが…。
昼休み、休憩室で熱心にゲーム雑誌に目を通しているTの姿があった。
ダメだ、こりゃ!