先日、タクシーに乗った際の運転手さんとの会話を再現してみた。
「すみません、虎ノ門まで」
「は?」
「虎ノ門です」
「は?虎ノ門?虎ノ門てあの虎ノ門でいいのね?」
他に何処にあるんだよ。
「あ、その前に新橋に廻ってから行って下さい」
「は?新橋?新橋ってあの新橋?」
そうです。あの新橋です。他にねえだろ!
「駄目だよ、駄目、駄目」
え?なんで?
「お客さん、東京知らないね~ちょっと遠回りになるよ、それだと」
「あ、いいんですよ」
「いや、よくない、よくない」
「同僚がそこで待ってまして、拾ってから行きたいんで」
「は?」
「だから同僚を」
「なに?ドウリョウ??」
「ええ、同僚」
「変わった名前だね。その人、日本人?」
ふざけてんのか?それとも同僚という言葉を知らないのか、この人は?!
「はい、日本人です」
だんだん、めんどくさくなってきた。
「珍しい名前だなぁ」
だから名前じゃねえっつーの。大丈夫か?この人。
「要するにそのドウリョウさんって人を新橋で拾ってから、虎ノ門に行けばいいのね?」
だからさっきからそう言ってんだろ!
「早くそう言ってくれればいいのに」
言ってるじゃん!超イライラしてきた。
「遠回りになっちゃうんだけどな~勿体ないなぁ」
「すいません」
何でオレが謝らないとならないんだ?おかしくない?
「まあ、どうせ自分の金じゃないですから。遠回りでも構いませんので」
こんな言い訳する必要ないんだけどなぁ。
「は?」
また始まった。
「自分の金じゃない?じゃあ誰の金で払うの?」
「あ…後で会社で清算するんで」
「は?」
もう勘弁して。
「後で会社がタクシー代は出してくれるんで」
「あ~そういうカラクリか?成る程、成る程」
カラクリって…。
「じゃあ例えば、大阪までタクシー乗っちゃっても問題ない訳だね。アハハハハ」
大阪まで乗ったら問題大有りだよ!下手したらクビになるよ!
「日本中何処でも行き放題だ。アハハハハ」
「………」
「それにしても、サラリーマンは大変でしょ」
「はぁ、でも運転手さんも大変なんじゃないですか?不景気ですもんね」
「は?」
また始まっちまった。
「は?」
「いや、あの不景気ですから、その…」
「あぁ、そうだね。不景気ね~困ったよね」
一番困ってるのは、今のオレだよ。
「あの~ちょっと電話しますけどいいですか?」
「は?」
徐々にこの「は?」に慣れてきた。人間て適応力あるもんだなァ。
「電話したいんですけど、いいですか?」
「あ~電話ね。どうぞ、どうぞ。盗み聞きなんかしませんから。アハハハハ」
もしかして、オレ…バカにされてるのかなぁ?!
会社に連絡を入れて電話を切ると、すかさず「相手は部長さん?気苦労するね~会社に戻る時間が遅くなるってわざわざ言い訳するなんてねぇ」
しっかり盗み聞きしてるじゃん!
何かスゲー疲れる。とりあえず会話は避けよう。
「……(寝たふり)」
「は?」
「!?」
「は?」
「え?!」
「お客さん、何か言いました?」
「いえ、何も言ってないですけど…」
「は?言ってない?」
「はい」
「幻聴かな」
幻聴って…マジで泣きたくなってきたよ。
「しかし今日は暑いねぇ」
「……」
「は?」
「…あ、あぁ、そうですね」
こっちが答えないと、延々と「は?」を繰り返す気か?この人は。
「暑いとイヤになるよね」
「はい」
「でもアタシわさ、ずっと車の中エアコン効いてるから、どんなに暑くても関係ないんだけどさ。アハハハハ」
なら、‘暑い’話題なんか出すなっちゅうの!
「しかし強いよね、ホント」
「は?」
ヤベー「は?」が伝染した。
「巨人ですよ、巨人。優勝間違いなしだね。嬉しくなるよね。ね、ね」
「……」
オレは根っからのヤクルトの大ファンだ!嬉しくも何ともない!
「は?お客さん、巨人好きでしょ?」
勝手に決め付けてるし。
「は?巨人好きじゃないの?東京にそんな人いるの?」
ここにいるよ!悪かったな!
「野球はあまり興味ないんで」
ここでヤクルトファンだなんて言って話が拗れても面倒だから、とりあえずこう答えておいた。
「は?野球好きじゃないの?変わってるなぁ、そうですか」
変わってるのは、あんただよ、あんた!
「野球見ないなんて人生の半分損してますよ」
そこまで言うか。でも確かに野球のない人生なんて味気無いだろうな。うん、うん納得…て、納得してどうすんだ?!
「ウワッ!何やってんだ、バカ野郎!」
え!?オレ何かした?
「あ、すいません。急に進路変更した車がいたもんで。ああいう常識ないのがいるからホント迷惑ですよ」
あの~その言葉、そっくりそのまま運転手さんにお返ししてもいいですか?
「お客さんは運転します?」
「え、えぇ、はい」
「したら飛ばすでしょ?ね?飛ばしますよね?」
どうして決め付けられるの?
「いえ、普通だと思いますけど」
「またまた~若い人はみんな恐ろしいくらい飛ばすから」
決め付けちゃったよ。
「安全運転が一番ですよ。安全運転。アタシは一応プロですから、プロの言う通りにした方がいいですよ。は?」
「はあ、すいません」
何故か謝っちゃったよ。完全にこの人のペースに巻き込まれてる…。
「アタシはこう見えても無事故無違反ですから。あ、嘘じゃないですよ。ホントですよ」
はいはい、分かりました。
「お客さんはあれ?違反したことありますよね?」
だから、なんで決め付けるのさ?まあ…確かにあるけど(-.-;)
「えぇ、まあ」
「やっぱり。そうだと思った」
なんか感じ悪っ!
「何の違反ですか?」
「はあ、まあ…」
「は?」
「……」
「どうせあれでしょ?スピードでしょ?それしかないですよね」
悔しいが図星だ。
「アタシの勘は当たるんです」
つーか、違反の多くはスピードじゃないのか?自慢するほどでもないだろ。
「それでお縄掛けられちゃったんですねぇ」
イヤな言い方するね。それじゃまるで犯罪者みたいじゃないか。
「スピード出すなら酒呑むな…ですよ」
ん?その評語おかしいだろ!頭が痛くなりそうだ。
ふざけてるのか、マジなのか…判断がつかない。
「あれ!お客さん!」
な、何だ!?
「もうすぐ新橋ですよ」
ダメだ、もうこれ以上耐えられない。
このままだと後ろから首を絞めてしまうかもしれない。
「そしたら○○のところで降ります」
「は?なんで?虎ノ門は?」
「急に予定が変わったんで」
「は?」
いいから黙ってオレを降ろせー!
「あ~そうですか。予定がね~せっかく話が盛り上がってたのに残念ですね」
盛り上がってたのは、あんただけだから!
オレはそそくさと金を払うと、逃げるようにタクシーから飛び出た。
もうタクシーにはあまり乗らないようにしようと心に誓った。