「な!だから頼むよ。一緒に行ってくれたら何でもしてあげる。Jちゃんが付き合ってほしいって言ったら、我慢して一日だけなら付き合ってあげるから」
もの凄い頼み方…ただただ唖然、呆然。
「こっちからお断りです!」
おとなしいJちゃんが、珍しく声を荒げたのも当然だ。
「お願い、お願い、お願い」
すると奴は、額を床にゴンゴンとぶつけ始めるではないか。とうとう自傷行為に出た。
「わかった、わかったから。とりあえず付いてくから」
結局、俺とJちゃんは同意せざるを得なくなった。
「ホント?」
奴は、額に血を滲ませながら微笑む…コワッ!
喫茶店を出た俺達は、U子の会社へと向かう…しかしいい迷惑だ。
交差点を渡ると、いきなり奴が立ち止まり「着いた」と一言。
ん?着いたって…いま俺達が立っているのは、ドン・キホーテの前なんだけど。
「U子の会社ってここなのか?」
「何言ってんだよ。ここはドンキ!知らなかったら教えてやろう。ドンキとはだな…」
それから奴は、延々とドンキについての説明をし始めた。
俺とJちゃんは、その間ずっと耳を塞ぎっ放しだったことは言うまでもない。
「で、なんでドンキに寄ったの?」
「カァー、鈍いな、君達ときたら。そんな鈍くて恥ずかしくないのか。武器を調達するためだよ、武器」
「はぁ?」
全く意味がわからない。
「丸腰で乗り込むわけにはいかないだろ。そんなの自殺行為だ。だからここで竹刀とか、バットとかだな~武器になりそうな物を買ってくの!ドンキなら何でも売ってるし、それに安いしね」
奴は得意げに腕を組む。
武器を調達って、ドラクエか!
冗談じゃない!こんな壊れた奴のために、警察沙汰なんかに巻き込まれたらたまったもんじゃない。
逆上したナルオが、バットを振り回している様が脳内に浮かび、思わず身震いが起こった。
そのとき、ある名案が閃いた。
名案といっても、普通なら小学生でも騙せないような陳腐な内容だが、こいつなら100%信じるとの確信があった。
俺はJちゃんに目配せをしてから…ナルオにこう言った。
「武器なんて必要ないよ。俺達がいれば大丈夫だから安心しろ」
「え?どういうこと」
「実は俺は、空手三段なんだ。だから多少、腕に覚えはある」
「そうだったのか!心強いや~でも、お前一人じゃなぁ」
「話を最後まで聞けよ。このJちゃんはだな~何を隠そう、柔道のオリンピック候補選手なんだぞ。ヤワラちゃん二世とも呼ばれるほどの逸材だ。そこら辺の男より全然、強い」
出まかせのオンパレードだ。
「へえ~知らなかったぁ。凄い、凄い!Jちゃん、いざとなったら頼むね!期待してるよ」
と言うと奴は、目にゴミでも入ったのか、しきりに両目をパチパチさせている…もしかして、ウインクのつもりなのか。
Jちゃんは、引き攣り笑いを浮かべながら、頷いた。よく見ると、鳥肌を立てている。
しかし、犬でも信じないようなこんなバカ話をあっさりと信じてしまうナルオって一体…。
「よーし!時は来た!U子奪還に乗り込むぞ~!」
いよいよ衝撃の結末へ…「続く」。