「絶対一番なるんじゃ」。
かつての野球少年達が選んだ芸人への道。
焼け付くような焦りの中を頂点目指してもがき、ついに売れると確信した時、相方を劇症肝炎が襲う。
人生を託した相方である友の再起を願い、周囲に隠し続ける苦悩の日々…。
今なお、芸人に語り継がれる若手天才漫才師の突然の死と、短くも熱いむき出しの青春が心に刺さる感動作。
2014年、僕がある中堅書店チェーンの本部に居たころ、本書が映画化されることになり「映画の宣伝に協力してくれ。宣伝費は経費込みで100万円」というオファーが吉本興業からありました。
その書店は芸能界に非常に強いパイプがあるのでこういうオファーもあるのだけれど。
って言ってもね。書店でできる宣伝なんか、たかが知れているよね。
とにかく本をがっつり積んで、パネルやPOPで「映画やりますよー」っていう告知をするくらい。
でも100万円貰ってそれじゃあ話にならないっていうので、先方から使用していい画像データを用意してもらってポストカードなんか作って「本書をお買上げの方にもれなくプレゼント」とかやってみたりしたけれど。
それも、何十店舗もあるような大型書店チェーンやコンビニなんかでやればそれなりの効果があるだろうけど、その書店チェーンの店舗数はせいぜい20店舗弱。
それでかかった経費はせいぜい2万円くらいのもので、あとは全部丸儲け。
芸能事務所とかテレビ局の感覚だと100万円程度は気にもならないような額なんだろうけど、書店が利益ベースで100万円を得るためにはどれだけの本を売らなければならないかって考えると……ホント、この企画って罪悪感しかありませんでしたね。
こんなことで100万円貰っていいの?って。
閑話休題。
まあ、そんなことがあったのでね。ちょっと気にはなっていたのだけれども。
ほならね、なんでそのときに読んでないのかっつー話ですけどもね。
まあ、実話っていうのは本当に強いね。
一緒に夢を追っているパートナーや、世界中で一番愛している恋人が不治の病に罹って死んでしまうというハナシは数多あるし、それなりに名作も存在するのだけれど(たとえば「君の膵臓をたべたい」あたり)、駄作もうんざりするほど多い。
けれど、実話っていうのは、もう有無を言わさない迫力がある。
説得力とかリアリティとか伏線とか。
そんなもの全く関係なく読ませる力がある。
だって本当にあった話なんだから。
実際、本書で河本氏が肝炎を発症するのは本当に突然で何の伏線もないし、発症から亡くなるまでの期間に何か感動的なエピソード(たとえば一度奇跡的に意識が戻るとか)があったりするわけでもない。
にもかかわらず、読者を惹きつけるのはこれが実際にあったことだからなんだよね。
実話は強い。
書き手と登場人物たちの想いがダイレクトに乗っかるから。
本当にパワフルにお笑いを愛した河本栄得という男の、そのエネルギーが読者にモロにぶつかってくるから。
フィクションもそれに負けずに頑張ってほしいよね。