あの女を愛していたのだろうか?
失って初めて気づく存在の愛しさ。
かつて空間を占め、いまやぽっかりと空いた女の声が静謐のなか永く響きわたり、男の人生に消すことのできない痕跡を刻みつづける。
全編を通して漂う暗い空気のなか男の複雑な喪失感を描いた前川裕の初期短編ミステリ集。
生と死の断裂が生んだ空虚を描く現代ミステリの極点である。
湊かなえさん以降、「イヤミス」というムーブメントも、
もはやひとつの「ジャンル」として確立したと言ってもいいでしょうね。
「クリーピー」はこのジャンルの中でも、そりゃもう、かなり「濃い」方で。
暗いし、不快感はあるし、人間って怖えなあって……ものすごく実感します。
こなた、本作は………暗いだけの作品になってしまっているかなあ。
初期作品ってことでね、クオリティの低さは仕方ないかもしれませんけど。
※物語の核心部分に触れています。ご注意ください。
「人生の不運」
二軒の並んだ家に住んでいる、塾講師の男と、障害を持っていて内職と生活保護で生計を立てている女。
どっちも暗い。
どっちが死んでもおかしくないなあと思って読み進めたら、
女の方が死んだ。
彼女は本当に自殺なのか?
彼女に内職の仕事を持ってくる男や、近所の世話好き主婦が、彼女から借金をしていることが判明。
もしかしたら……という展開になるのだが、真実はまったく別のところにあった。
主人公の男の家の戸に挟まれていた手紙。
男は最近別れた元カノからの復縁の手紙と思い、それを断る返事を書いて戸に挟み直すが……、
これはあからさま過ぎるというか、ちょっと不自然すぎて、
この手紙が隣人の女からのもので、自殺は「あ、これはこの手紙が原因でしょ」とわかる。
短篇だし伏線がわかりやすいのは仕方ないかもしれないけれど、取り立てて特徴の無い作品になってしまったよね。
ただただ、暗いだけで味が無い作品。
「人生相談」
様々なメディアに虚偽の人生相談を持ち掛ける男。
かなりの高収入があるのにもかかわらず吝嗇に徹する妻に対して不満があるのに、
なぜか全く違う内容の人生相談を創造し、新聞やテレビに採用されることに喜びを見出し、
それに対する回答を嘲笑う。
なんと歪んだ「遊び」なのだろうか。
歪んだ人間には、歪んだ人生の結末が待っている。
ホント、これもまたただただ暗くてどんよりしただけの話。
陰鬱であることがイヤミスの条件ではないのだよと言いたい。
「クリーピー」のように「ミステリ的な面白さ」や「まとわりつくような粘着質の恐怖」が無くて、ただただ暗いだけ。
まあ、アマチュア時代の作品だからね仕方ないかもしれないけど。