決して交わるはずのなかった、俺たち。
喪失を超えるように、ただ走り続ける。
命をかける覚悟?
誰かを傷つける恐怖?
そんなもの呑み込んで、ただ俺は走りたいんだ。
ひたすらに、自分自身と向き合うために。
助けられなかったアイツのために。
一年間限定で自転車ロードレースに挑むことになった正樹。
「サクリファイス」シリーズ4作目、新たな舞台は大学自転車部!
チカウを中心としたプロレーサーたちの世界を描いていた前三作とは一変して、
第四作目の「キアズマ」は大学の自転車部が舞台。
つまらない諍いで自転車部の部長に怪我をさせてしまった正樹は、
その責任をとるために一年間の期限付きで自転車部に所属することになる。
その自転車部には櫻井という絶対的エースがいるが、
いかんせん選手層が薄く(というか、櫻井もいれてそもそも4人しかいない)、
いままでこのシリーズを読んできた読者ならば「アシストがいなければ勝てるものも勝てない」という自転車レースの絶対的真理を知っているので、
素人の正樹でも「いないよりマシ」であることは理解できる。
しかし、部員たちは正樹に対して「いないよりマシ」というよりは「鍛えればモノになる」という予見があったようで、
正樹はぐんぐん実力をつけ、櫻井のエースの座を脅かすところまで成長をする。
で、そうすると、櫻井と正樹のどっちがエースになるんだという問題も生じてくるわけで、
自転車レースでエースを張るような人間というのはやっぱり一癖もふた癖もあるようなのばかりだから、
すんなりとおさまるわけはないんだ、やっぱり。
ましてや、強烈すぎる「走るための理由」を持っている櫻井だから。
正樹はその櫻井の「勝利への執着」に圧倒され、一時はレースを離れようとする。
でも。
それは無理。
正樹にも逃げてはいけない、逃げられない理由があるから。
学生であれ、プロレーサーであれ、
人生を、夢を、想いを、生命を、あらゆる感情を背負って走るのは同じなんだなと思った。
スポーツだというのに。
なぜそこまでして走るのか。
この「なぜそこまでして」はこのシリーズにずっとついてまわっているテーマだ。
シリーズが最後までいきついたら、この問いに答えはでるのだろうか。
なお、「キアズマ」とは、
生物学用語で、減数分裂の第一分裂の過程で染色体の乗換えが起こり「X字形」になった部位のこと
だそうだ。