「感染遊戯」 誉田哲也 光文社 ★★★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

「ストロベリーナイト」のガンテツ。
「シンメトリー」/「過ぎた正義」の倉田。
そして、捜査一課姫川班最若手だった葉山。

捜査一課殺人犯捜査係のガンテツこと勝俣健作が手がけた、製薬会社サラリーマンの殺人事件。

息子の起こした殺人事件によって刑事の職を追われる直前、倉田修二がかかわることになった、二人の男女を襲った路上殺傷事件。

姫川玲子班解体直前、殺人犯捜査第十係に所属していた葉山則之が担当した、世田谷の老人同士の小競り合い。

事件の規模も様相もさまざまだが、共通している点が、ひとつあった。
それは、被害者の個人情報を、犯人は何らかの手段で手に入れているらしきこと。

事件の背後には何があるのか?


感染遊戯 (光文社文庫)




インターネットがここまで発展した今、実際に起こってもおかしくない事件。



ネット掲示板に、腐った官僚たちの悪事を晒し、彼らの個人情報を広く募る。



どんなに社会的地位が高くても、家に帰ればただの人だ。買い物もすれば近所付き合いもある。


誰からも気付かれず、ひっそりと暮らしているわけではない。


だから、ネットという匿名の世界では、簡単に個人情報が晒される。



それを見た誰かが、義憤に駆られ、その官僚を殺害したとしても、


掲示板の管理人にせよ、個人情報を書き込んだ人物にせよ、


個人情報保護法に基づく民事で訴えられることがあったとしても、

(状況によってはそれさえも可能性は低いかもしれない)


少なくとも、殺人幇助や殺人教唆、ましてや殺人の共犯などで逮捕されることは絶対にない。



自分は安全な場所にいて、事件には知らん顔なんて卑怯?



だが、それは殺された官僚たちにも言えることだろう。



安全でない血液製剤から免疫不全症候群を発症した人がいたとき、


官僚の中で誰かその渦中に身を投げ出した人がいただろうか?



法律を捻じ曲げてまで支払うべき年金を支払わなかったのは、


官僚たちはそれで何か困ることは何もなかったからではないのか?




ついつい、犯人の側に立って考えてしまうのは僕が庶民だからであって、


官僚には官僚の言い分があるのだろう。


第一、何がどうあろうと、それが人を殺していい理由にはならない。そこを曲げたら法治国家ではない。



さて。


この事件に挑むのはわれらが姫川玲子……ではなく。


ガンテツ、それからノリである。


姫川ももちろん捜査には加わっているのだけれど、物語の中ではほとんど彼女にスポットライトは当たらない。


にもかかわらず、姫川の存在感は相変わらずだ。


ガンテツが姫川のいないところでこんな風に言う。


「うかうかしてっと世田谷に抜かれるぞ。あっちにゃ姫川がいる。あれは、一課長の首が飛ぶと分かってるネタでも平気で挙げようとする恩知らずの危険分子だ。実害があるかどうかも分からねえネタの予防線で、大人しく足踏みしているようなタマじゃねえんだッ」


誉めているんだかどうだか微妙だけれども、


少なくともガンテツが姫川のことを認めているのはわかる発言だ。



事件解決後、ガンテツは珍しく「休ませろ」と言う。


ガンテツにしてもこの事件は簡単なものではなかったらしい。



だが、そんなフラフラのガンテツなのに、姫川からの電話の後、一転、闘志を燃やし始める。



姫川とガンテツは天敵だけれど、切磋琢磨しあう良き好敵手でもあるようだ。


そんなことを言うと、ガンテツはむきになって否定するだろうけれど。