橋が流され孤立した屋敷で、主人である鞠子が何者かに刺殺される。
集まっていたミス研OBの仲間たちは、疑心暗鬼になりながらも、鞠子を殺害した犯人を推理する。
……しかし、これは小説。いわゆる作中作。
実際にこの事件の解決に挑むのは、いずれも腕に覚えのある〝ミステリ読みのプロ〟たち。
少しずつ読まれていく物語の途中で早押しで解答。正解が出れば大金を手に入れることができ、不正解ならば……。
この一攫千金の推理バトルロワイヤルはテレビ番組として、全国のお茶の間に流れるのだが、はたしてその結末は?
多重解決の極北!
※物語の核心部分に言及しています。未読の方はご注意を。
多重解決と言えば、誰でも思い浮かべるのはやはり、
アントニイ・バークリーの「毒入りチョコレート事件」
でしょう。
個人的には、
我孫子武丸さんの「探偵映画」や、
米澤穂信さんの「愚者のエンドロール」あたりが好き。
「毒チョコ」は驚きの8重解決ですが、本作はなんと15重解決。マジか。
多重解決の極北と銘打っているけれど、看板に偽りなし。
物語の進行に従って、早押しクイズ形式で解答者が推理を披露していくという形式なので、
証拠や条件がすべて出揃った後に、複数の推理が披露されて比較されていくという、
通常の多重解決とは違った趣向が楽しめる。
さらに、出題側がインチキで正解を出さないようにコントロールしているから、
推理をした途端に、その推理が否定される材料(証拠)が提出される。
たとえば、「ネコのように叙述されているものが実は人間で、その人物が犯人」という推理が披露されると、
その次の章で「ネコであること」がしっかり記述されたりする。
そういう意味では、全編が証拠と偽の証拠のオンパレードで、
「後期クイーン問題」もへったくれもないという。
アンチミステリと言えなくもないけれど、正直、その程度の評価にはとどまらない作品だと思う。
読むのは簡単だけど、
たぶん、これ、実際書くとなると、その労力は半端じゃないと思う。
問題作とか怪作とか、いろいろ評価はあるかもしれないけれど、
一番しっくりくるのは「労作」だろう。
ミステリ読みに対して真っ向から挑戦をしてきている傑作であると言える。