「華麗なる誘拐」 西村京太郎 徳間書店 ★★★★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

新宿超高層ビル街の喫茶店で若いカップルが殺された。

シュガーポットに入れられた毒物による無差別殺人の始まりだった。

事件の三日前、蒼き獅子たち(ブルーライオンズ)と名乗る男から首相公邸にかかってきた怪電話が現実のものとなったのだ。

「日本国民一億二千万人を誘拐した。五千億円を支払え」

大胆な着想の本格長編推理。


華麗なる誘拐 (徳間文庫―左文字進探偵事務所)



※物語の核心部分に触れていますので未読の方はご注意を。





ある日、首相官邸に電話が入った。


日本国民一億二千万人を誘拐した、身代金五千億円を払え、と。


そして身代金の支払いがされないと、全国のあらゆる場所で無差別に殺人が起こる。



この難事件に立ち向かうのはご存じ、左文字進。



まず、何と言っても日本国民すべてを誘拐した、というスケールの大きさが凄まじい。


更に、日本国民全員を人質に見立て、無差別殺人を起こすという発想も凄い。


誰が死んでも構わないとばかりに起こされる殺人なのだから、


警察を総動員したところでこれを防げるわけはない。



身代金の受け取り方も計算しつくされたもの。


自分自身を守りたければ身代金を払った証拠のワッペンを五千円で買え、と。



ここまでは犯人側の完全勝利だ。


左文字も警察も手も足も出ない。



ところが左文字のそこからの発想の転換が素晴らしい。


日本国民全員を守ることなど警察にはできない、と嘲笑した犯人にその言葉をそのまま叩きつける。


ワッペンを買った人間たちすべてをお前たちは守れるかと。



天才としての自尊心を揺るがし、そして落とし穴にはめる。


まさに頭脳VS頭脳の対決。


読みごたえ十分だ。