さわやかで、ちょっぴりほろ苦い青春ミステリの傑作登場!
待望の文化祭。だが、折木奉太郎が所属する古典部では大問題が。手違いで文集を作りすぎてしまったのだ。古典部の知名度を上げて文集の完売を目指すため、奉太郎たちは学内で起きた連続盗難事件の謎に挑むことに!
「省エネ探偵」折木奉太郎、
「データベース」里志、
奉太郎の天敵の摩耶花、
そして、古典部の部長にして最大のトラブルメイカー、千反田える。
相変わらずの古典部のメンバーだが、
三作目はいよいよ、彼ら文科系部活動の晴れ舞台、学園祭がその活躍の場である。
米澤作品すべてに言えることかもしれないが、本シリーズはキャラクターに特徴がある。
それが何だか野暮ったくって垢抜けなくて現実的でない。
こんなヤツら、いるもんかってそんな風に思ってしまう。
けれど、それをここまで徹底してしつこく描かれると、なんだかそれが面白くなってきてしまう。
不思議なものだ。
さて、今回の古典部は、摩耶花のミスによって、計画の七倍以上である二百冊の文集を作ってしまい、
あの手この手で何とか完売を目指す。
里志は三作目にして初めて「データベース」と自称するだけの活躍を見せてくれた。
はっきり言って疑問だったんだよな、そんなに里志って知識豊富かい、って。
(それでもわざわざ明言するほどじゃないと思うけど)
千反田は各方面への宣伝活動に奔走。
今回は文集の完売という大事業を抱えているため、彼女の「気になるんです」発言は控えめ。
摩耶花は掛け持ちで入部している漫研の方で思いもよらぬ戦いに巻き込まれ、必死に頑張る。
女と女の戦いって怖いよな。
彼女たちの戦いの争点である部分について僕はどちらかと言えば、
摩耶花に賛成してあげられないかもしれない。
漫画だけでなく、どんな芸術作品であっても評価は常に主観的でしかない。
絶対的、客観的な評価を得る作品がこの世の中にあるとは思えない。
自分自身の中でさえ「あれほど面白かった漫画が、今読むとつまらなく思える」という経験があるのだから。
さて、我らが名探偵・折木奉太郎はというと、持ち味を存分に発揮して店番を務めている。
彼にしてみれば、まさに適材適所というところだろう。
学園祭では、いろんな部活で盗難が発生するという事件が起きる。
しかも、この事件は、「アカペラ部」では「飲料水(アクエリアス)」が、
「囲碁部」では「碁石(石)」が…というように、
クリスティの「ABC殺人事件」ならぬ、「あいうえお盗難事件」。
(犯人の署名により、この事件は「十文字」事件と呼称される)
安楽椅子探偵の奉太郎君だが、座りっぱなしでもやはり名探偵は名探偵。
「わらしべプロトコル」によって得た小麦粉で摩耶花のピンチを救ったり、
その「わらしべプロトコル」で最後に得た同人誌をヒントに「十文字」事件を解決に導いてしまう。
さすが。
解決も必然性があり、面白いと思う。
すっきりとまとめた感がある。
ただ、ひとつ気になるのは「クドリャフカ」があまり関係ないところ。
これ、「ク」で始まる言葉なら何でもよかったのに、作者はなぜ敢えて「クドリャフカ」を選んだのだろうか。
ところで、作中で落研の漫才をやっているのだが、このネタが何と「氷菓」のあとがきで語られてた「寿司事件」の真相になっている。
長年の謎が解けてちょっとスッキリした。
しかし…今回、漫研で摩耶花が三種類のコスプレ(って言うと摩耶花に殴られるな)をしているのだが、
そのうち二つが何のコスプレだかわからない…。またしても、気になる…。
(って、何だか僕まで千反田サンになってしまった。笑)