「愚者のエンドロール」 米澤穂信 角川書店 ★★★☆ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

文化祭に出展するクラス製作の自主映画を観て千反田えるが呟いた。
脚本家が途中で倒れ、解決編がわからずじまいになってしまったクラス製作のミステリ映画を観て、犯人を推理せよ。
この難解なミッションを千反田えるが知り合いの先輩である入須に依頼され、またしても奉太郎が駆りだされる。里志、摩耶花といった古典部部員ももちろん一緒だ。



愚者のエンドロール (角川文庫)


※物語の結末に言及しています。未読の方はご注意を。





撮影班の生徒が推理した「古丘廃村殺人事件」、


小道具班の生徒が推理した「不可視の侵入」、


広報班の生徒が推理した「Bloody Beast」。


三つの推理が連作短編のように章ごとに描かれるが、


いずれもオブザーバーとして任命された奉太郎によって否定される。



「省エネ少年」の奉太郎は傍観者であろうとするが、


入須の「誰でも自分を自覚するべきだ」という言葉に心打たれ、最後は見事な推理を展開する。



観客の目からは見えない登場人物、カメラマンが犯人であるという魅力的な解決は、


綾辻行人の「意外な犯人」(「どんどん橋、落ちた」に収録)とまったく同じ叙述トリックだが、


もし本作を先に読んでいたらかなり衝撃を受けていただろうと思う。

(作品の出来不出来はともかく、こちらの方がトリックをうまく活かしているように思えた)



しかし、この優秀な解決編にもさらにケチがつき、意外な結末が待っている。


個人的にはカメラマンのトリックが好きだったから、


最後のどんでん返しは不要だったかなと思わないでもない。


せっかく頑張った奉太郎もなんだか可哀相な気がするし。


いくつもの推理が展開されそれらが合理的な理由で否定されていく様は、


バークリーの「毒入りチョコレート事件」へのオマージュだと作者本人があとがきにて書いている。


また「毒入り~」+ミステリ映画というコンセプトは、


我孫子武丸「探偵映画」という前例が存在するということも。


本作はこれらの先例に負けず劣らずの出来になっている。




ところで、前作「氷菓」のあとがきにて語られた「寿司事件」だが、またしてもはぐらかされた。


その上、さらに謎が付け加えられた。


真相がわからないのは精神衛生上、好ましくないので勘弁して欲しい。