「ななつのこ」 加納朋子 東京創元社 ★★★☆ | 水底の本棚

水底の本棚

しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

短大生の入江駒子は「ななつのこ」という本に出逢い、ファンレターを書こうと思い立つ。

身辺を騒がせたスイカジュース事件をまじえて長い手紙を綴ったところ、事件の解決編ともいうべき返事が舞い込んだ!

こうして始まった駒子と作家のやりとりが鮮やかにミステリを描き出す、フレッシュな連作長編。


ななつのこ (創元推理文庫)


※ネタバラシを含む感想です。未読の方はご注意を。





作中作の「ななつのこ」に感動した駒子が作者にファンレターを送る。


駒子の身近で起こる事件を、手紙だけでいとも簡単に解いてしまうのは、


いささかご都合主義のような気もしないではないが、


あくまで「想像」という名の解決編であると思うことにしよう。



「モヤイの鼠」は、駒子がわずかに欠いてしまった絵画が、実は逆さにかけられていた、というオチ。


抽象画に対する皮肉でもあるのかなあ、なんてちょっと邪推しつつ、


加納朋子さんは美術をモチーフに書くとなかなかうまいよね、なんて感心したりもする。


美術ネタで連作短編集とかやってくれないかなあ。




「私の絵です」
あのとき、たまちゃんはそう言った。私には言えなかった。先生に対しても言えなかったし、美術展で自分のサインの入った絵と向い合ったときにも、そうは言えなかった。とても言えなかった。
あれは私の絵じゃない。たぶんずっと優れてはいる。
けれど、偽物だ。




『空は青いばかりじゃ、あるまいに』
少ししわがれているけれど、優しい声でそう言った。みんながきょとんとしていると、お祖母ちゃんは子守歌を歌うように続けた。