自分が何者なのか調べてほしい。
推理作家鹿谷門実に会いたいと手紙を送ってきた老人はそう訴えた。
手がかりとして渡された「手記」には彼が遭遇した奇怪な殺人事件が綴られていた。
しかも事件が起きたその屋敷とはあの建築家中村青司の手になるものだった。惨劇に潜む真相は。
※物語の核心部分に触れています。未読の方はご注意を。
場所の錯誤というトリックではこれほどのスケールのものはそうはないだろう。
何しろ錯誤させる場所が「北海道」と「オーストラリア」。赤道を越えた地球規模の大トリックだ。
第八章でひとつずつ、手記の違和感が残る点を明確にしていくシーンは、
思い出せなかった記憶が少しずつクリアになっていくような爽快感がある。
推理小説の解決編とはかくあるべきという見事な論理展開を褒めたくなるが、
むしろこれほどまでの伏線を用意していたかという方に驚かされた。
これだけのヒントを貰っても、舞台の錯誤に思い当たらないのか、とつい落ち込みそうにもなる。
ただ、その壮大なトリックが読者を驚かせるためだけのもののような気が僕にはする。
殺人事件のトリックと密接な関係にないのだ。
それだけが少々残念である。