自ら犯した不祥事で職を追われた元警察官の佐伯修一は、今は探偵事務所に籍を置いている。決して繁盛しているとは言えない事務所に、ある老夫婦から人探しの依頼が舞い込んだ。
自分たちの息子を殺し、刑期を終え社会復帰しているはずの男を探し出し、さらにその男を赦すべきか、赦すべきでないのか、その判断材料を見つけてほしいと言うのだ。
この仕事に乗り気でなかった佐伯だが、所長の命令で渋々調査を開始する。実は佐伯自身もかつて身内を殺された犯罪被害者遺族だったのだ……。
江戸川乱歩賞受賞の著者が、犯罪者と犯罪被害者遺族の心の葛藤を正面から切り込んで描いた社会派ミステリ。
もし自分が。大切な人を殺され、その犯人がのうのうと生きているのだとしたら。
たぶんどんなことがあっても赦しはしないだろう。
贖罪の気持ちの有無とか、その犯人が更正したかどうかとか、そんなことは一切関係ない。
そんなことは知ったことか、だ。
だから、僕はこの物語をとても興味深く読んだ。
犯人を復讐のために刺した被害者遺族がいた。
犯人に被害者のことを生涯忘れさせないことを復讐の代わりとした遺族がいた。
憎しみだけでは生きていけないと悟った男がいた。
たくさんの人の思いと決断を間近で見てきた佐伯ははたしてどんな決着をつけるのか。
物語はどこに着地をするのか。
加害者を刺し殺すなどして復讐をはたすのか。
または別の生きがいを見つけ、事件を忘れていく努力をするのか。
言い換えれば、ひどく後味の悪い結末を迎えるか、もしくは予定調和のありがちなエンディングを迎えるか、その二択だと思っていた。
中盤は面白く読んだけれど、結末にあまり期待はしていなかった。
それだけに――このエンディングは悪くないと思った。
僕が考えていた二択の両方を満たすようなそんな終わり方。
息をつかせず最後まで読みきらせる筆力と合わせて、とても優れた作品だと思う。