SF作家にして名探偵の栗本薫クンは逗留先の軽井沢で、女流作家藤波武子女史からアイドル歌手朝吹麻衣子を紹介され、すっかり心を奪われてしまう。
その夜から藤波女史の別荘に泊ることになった薫クンは、麻衣子の周りで起こる連続殺人事件に巻き込まれてゆく。
そして伊集院大介が登場し、独自の調査に乗り出した。
栗本薫との二大名探偵、夢の競演。
正直、トリックだの、犯人当てだのはどうでも良い。
この物語は朝吹麻衣子と栗本薫のものだ。
(この栗本薫は作中人物のほうね)
レギュラー探偵である伊集院大介と栗本薫の華麗なる共演。
この魅力的なシチュエーションですらどうでも良いと思えるくらいに、
朝吹麻衣子と薫君は鮮烈に愛し合い、そして、その恋はあっさりと散った。
朝吹麻衣子はまさに、薫君がその専売特許であるモラトリアムを捨てても良いとすら思うのに相応しい少女だった。
薫君の言葉を借りるなら、
「わずか十七歳で、彼女にふさわしくない境遇におしこめられ、手を縛られ、いやしめられ、おとしめられていたけれども、その目はつねに激しく深い、何ものにも汚すことのできぬ誇りに燃えていた」
物語を読み進めるにつれ、僕も朝吹麻衣子という少女に強く惹かれていった。
朝吹麻衣子は、誰もが愛さずにはいられない愛くるしさと、
だけど決して誰のものにもならないような冷たさを兼ね備えた稀有な少女だった。
でも僕は彼女が薫君の前でだけ見せる、その年齢に合った幼い少女の顔が好きだったし、
そんな彼女にできることなら普通の幸せ(そんなものがあれば、だが)を手に入れて欲しかった。
だからこの結末は僕にとっては(もちろん薫君にとっても)最悪のものであったけれど、
でも、朝吹麻衣子という少女には最も相応しい幕引きであったのかもしれないとも思ったりもするのだ。