日曜の昼下がり、株式上場を目前に、出社を余儀なくされた介護会社の役員たち。
エレベーターには暗証番号、廊下には監視カメラ、有人のフロア。
厳重なセキュリティ網を破り、自室で社長は撲殺された。
凶器は。殺害方法は。
すべてが不明のまま、逮捕されたのは、続き扉の向こうで仮眠をとっていた専務・久永だった。
青砥純子は、弁護を担当することになった久永の無実を信じ、密室の謎を解くべく、防犯コンサルタント榎本径の許を訪れるが…。
※物語の核心部分に言及しています。未読の方は回れ右でお願いいたします。
本作は二部構成になっている。
第一部では完全な密室の中で会社社長が撲殺される事件が起こる。
その事件の真実を探るべく、女弁護士・純子と怪しげな防犯のプロ・榎本が活躍する。
第二部は一転して倒叙ミステリとなる。
時間が巻き戻され、犯人側からの視点で犯行が語られる。
犯人である少年がそこに行き着くまでの経緯も詳細に描かれる。
この構成についてはとても良いと思う。
榎本と純子の推理から窓拭きの青年が容疑者として浮かび上がってきたら、
事件の起きた背景を描きづらいし、そこを推理で補うのはあまりにも無理がある。
とても、こうすっきりとは納得ができなかっただろう。
また、逆に最初から倒叙ミステリとして書かれていたら、
読者の興味を最後の最後まで引っ張ることは難しかったような気がする。
(ただし「青の炎」に近い作品にはなったような気はする)
個人的には、貴志祐介さんについて言えば、
本格推理よりもホラーサスペンスのほうが面白いかなあと思う。
だがこれほどに緻密に描かれた推理小説は誰にでも書けるものではない。
これはこれで貴志祐介さんらしい作品なのだと思う。
トリックは我孫子武丸の「人形はテントで推理する」のものにやや似ているが、
貴志祐介らしい演出が施されたトリックと言っていいと思う。
「おおっ」と驚くようなトリックではなく「ほお~」と感心できるようなタイプ。
これはこれで面白い。