「ジェシカが駆け抜けた七年間について」 歌野晶午 角川書店 ★★★ | 水底の本棚

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本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

カントクに選手生命を台無しにされたと、失意のうちに自殺したアユミ。ジェシカは自分のことのように胸を痛め、カントクを憎んだ。
それから七年、ジェシカは導かれるように、そこへやって来た。目の前には背中を向けてカントクが立っている。ジェシカは側にあった砲丸に手を添える。目を閉じるとアユミの面影が浮かび上がる。死んだ彼女のためにしてやれることといえば、もうこれしかないのだ。



ジェシカが駆け抜けた七年間について (角川文庫)



※ねたばらしを含む感想です。未読の方はご注意を。







一歩間違うとこれはバカミスになってしまうし、


もしかしたらそう受けとめる人もいるかもしれない。


だが僕はギリギリ、オンラインの作品だと思う。


こういうチャレンジ精神が歌野晶午さんらしい。



この作品はある意味、歌野作品のエッセンスをすべて詰め込んだ一作とも言える。



作品全体に仕掛けられた叙述トリックという意味では、


「葉桜の季節に君を想うということ」に通じるものがあるし、


途中に挿入される軽いエピソードが小作品になっており、


なおかつ作品全体の大ヒントになっているという点は、


「安達ヶ原の鬼密室」の入れ子構造の短編集に類似している。


また、時間と空間を越えたトリックは「ブードゥー・チャイルド」に通ずるものがあると思う。



エチオピア時間というのはまったく知らなかったが、


これほどあからさまに何度も話題にされていればその時間認識の相違には気づいてしかるべきなのだ。


伏線としてはあまりにもあけすけ過ぎるくらいだ。


有栖川有栖さんの火村シリーズの短編に豆知識的なネタだけで書いた作品がよくあるが、


本作がそこまでレベルが低くないのはアンフェアでないという点(つまり豆知識を前提として紹介している点)と、その伏線の張り方の巧妙さだろう。



うまく書いている一作だと思う。