作家・藤井陽造は、コンクリートを満たした木枠の中に全身を塗り固めて絶命していた。
傍らには自筆で「メドゥサを見た」と記したメモが遺されており、娘とその婚約者は、異様な死の謎を解くため、藤井が死ぬ直前に書いていた原稿を探し始める。
だが、何かがおかしい。
次第に高まる恐怖。そして連鎖する怪死。
※物語の結末に触れています。おまけに酷評。気になる方はお読みにならないよう。
推理小説だと思って読んでいた。
序盤で多くの魅力的な謎が提示され、
さて、どんな結末を迎えるのかと、
論理的な着地を期待して読んだ。
それが最後はSFチックな、ある意味、夢オチのような終わりかたをする。
不思議なラストもいい。
だがその場合でも論理性は必要だ。
そうなったことに対する伏線は必須だ。
自分がいつの間にか、恋人の死んだ父親になっている。
それは恐怖だし、綺麗にまとめればサスペンスとして優秀なものになると思う。
だが本作に限って言えば本格推理の方向でまとめたほうが良かったのではないかと思う。
伏線も何もなく唐突な夢オチ。
こんなラストでまとめてよいなら誰でも書ける。一言で言えば駄作だ。
ホラーやオカルトだと思わせておいて、論理的な解決をつける手法はアリだ。
けれど、ミステリだと思わせておいて、SFやオカルト的なオチというのは詐欺に近いと思う。
そして、さらに付け加えるならば、本当にうまい作家なら、
ミステリの中にオカルト的な内容を含んでいても「こういうのもアリか」と読者に思わせることができる。
綾辻行人の「霧越邸殺人事件」などが最たる例だ。
しかし、後に「クリスマスの4人」の解説(吉野仁・文芸評論家)で、井上夢人がこの作品を「読み終わって、読者が本を壁に叩きつけたくなるような作品」を狙って書いたと知った。
作者自ら「噴飯物」と名づけてすらいるという。
であれば、その試みは大成功と言える。
僕はこの本を壁に叩きつけたくなったのだから。
だが、そういう試みは個人の趣味としてやって欲しい。
もしくはあらかじめそういう本であることを知らせておいてほしい。
お金を払って本を買っている読者を勝手に巻き込むのは失礼だろう。