若槻慎二は、生命保険会社の京都支社で保険金の支払い査定に忙殺されていた。
ある日、顧客の家に呼び出され、期せずして子供の首吊り死体の第一発見者になってしまう。
ほどなく死亡保険金が請求されるが、顧客の不審な態度から他殺を確信していた若槻は、独自調査に乗り出す。信じられない悪夢が待ち受けていることも知らずに…。
恐怖の連続と桁外れのサスペンス。第四回日本ホラー小説大賞大賞受賞作。
※本作の核心部分に触れています。未読の方はご注意を。
いやあ、本当に怖いですよ。
夜中に一人で残業とか出来ないですよ。
深夜、一人だけ残業していた若槻に菰田幸子の魔手がジリジリと迫って来る場面は、
「手に汗握る」という表現がピッタリ。
思わず、振り返って自分の背後を確認したくなります。
菰田幸子の恐ろしさは、その狂気だけではない。
ただ猛り狂っているだけの女であれば、あっさりと警察に捕まっていただろうし、
そもそも計画的な保険金殺人など実行できないだろう。
彼女は狡猾に、そして残虐に、襲いかかってくる。
若槻の知り合いを脅して電話をかけさせ、
一人で残業するように仕向けるあたりにその性格が顕れている。
そこが恐ろしい。
超常現象や心霊現象など一切信じない僕でも、狂った人間は怖い。
本作にはホラーとしての楽しみ方と同時に、ミステリ的な楽しみも存在する。
若槻の疑惑は当初、夫の菰田重徳に向かう。
息子は幸子の連れ子だし、保険金の請求に訪れるのも重徳だ。
だが、それを裏から操っていたのは幸子であった。
息子の保険金が降りた後、重徳の両腕が切断されるという事件があり、やっと若槻も気づく。
幸子のこのときのセリフがまた恐ろしい。
「こどうしょうがい……たらいうのんを貰うわな? それでな。この人が死んだら、もっぺん保険金もらえるんか?」
人はどこまで非道になることができるのだろうか…?