「名探偵の饗宴」 アンソロジー 朝日新聞出版 ★★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

今日は、どの探偵の活躍を読む?
思わずうなるオチと名推理!
8人の作家による、8人の探偵が織りなす
8つの謎を描いたミステリーアンソロジーが文庫化。

◆豪華執筆陣&探偵たち◆

山口雅也「鼠が耳をすます時」
キッド・ピストルズ……異世界英国を駆け巡るパンク探偵!

麻耶雄嵩「水難」
メルカトル鮎……シルクハット&タキシード姿の銘探偵

篠田真由美「ウシュクダラのエンジェル」
桜井京介……ミステリアスな美貌の建築探偵

二階堂黎人「ある蒐集家の死」
二階堂蘭子……ゴージャスな才色兼備の女探偵

法月綸太郎「禁じられた遊び」
法月綸太郎……苦悩と隣り合わせのミステリ作家探偵

若竹七海「詩人の死」
葉村晶……クールな目線が光るフリー探偵

今邑彩「神の目」
大道寺綸子……相棒は超絶美青年、黒づくめの探偵所長

松尾由美「バルーン・タウンの裏窓」
暮林美央……リーダーシップ満点の元・妊婦探偵


名探偵の饗宴 (朝日文庫)



麻耶雄嵩、法月綸太郎、若竹七海、今邑彩……とくれば、


これはもう読まないわけにはいかない。


残念ながら、若竹七海、今邑彩は既読だったのだけれども。



※未読の方はご注意ください。ねたばらしをしています。



麻耶雄嵩 「水難」



ミステリで幽霊が登場したら、そこには何かトリックがあるというのがテンプレなのだが、


この短編では幽霊が実在(って言うのか?)する。


恐るべし、麻耶雄嵩。


しかし、謎解きそのものは本格ミステリのそれ。


本来ならば隠しておきたいはずの犯罪(土蔵の中の死体)を明らかにすることで、過去の犯罪(幽霊が出現するきっかけとなった井戸の事件)から注目をそらすというのは、


ロジックが破綻しているような気もするが、


その本末転倒ぶりが面白いと思う。




二階堂黎人「ある蒐集家の死」


ダイイングメッセージもの。


ダイイングメッセージの謎解き以外の部分を徹底的にそぎ落とし、


シンプルなパズラーに徹しているところが良い。


正直なところを言えば、あまり好みではないジャンルではある。


それは、大抵、ダイイングメッセージというものが単なる言葉遊びの域を出ないもので、


もちろんこの短編もそこにとどまっているのだけれど、


それでもワンアイディアで書く短編としてはとても綺麗にまとまってはいると思う。




法月綸太郎「禁じられた遊び」



法月綸太郎の未読作品が読める、とワクワクしながらページをめくったものの、肩透かしにあった。


何と言うか、これはもはや小説ではない。


それを意識的に行う勇気はもしかしたら賞賛に値するのかもしれないし、


こういう実験的なメタミステリ(というよりもメタ小説)に挑戦できるのは法月綸太郎以外にはいない。


まあ、だからと言って面白いわけではないのだけれど。