「闇の喇叭」 有栖川有栖 講談社 ★★★ | 水底の本棚

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本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

私的探偵行為を禁止する法律が成立した平世21年の日本。

女子高校生の空閑純は、名探偵だった両親に育てられたが、母親はある事件を調査中、行方不明になる。母の故郷に父と移住し母の帰りを待つ純だったが、そこで発見された他殺死体が父娘を事件に巻き込む。

探偵の存在意識を問う新シリーズ開幕!


闇の喇叭 (講談社文庫)




ミステリファンならおよそたいていの人が幼き頃に、


怪人二十面相と明智小五郎の知恵比べにドキドキしたことがあるだろう。


あるいは、シャーロック・ホームズの快刀乱麻の推理にワクワクしたことがあるに違いない。



そんな彼らの活躍が、この世界では犯罪になる。




日本では銃を打つことは(狩猟などを除いては)許されていない。


たとえ相手がどんな悪人であろうとも、警察官以外の人間が銃で撃ち殺したらそれは犯罪だ。


決して「正義」とは呼ばれない。



それと同じように、この世界では警察以外の人間が事件を推理したら、それは犯罪と見なされる。


そんな馬鹿な、と思うかもしれないが、これはそういう話なのだ。


探偵行為が犯罪となるパラレルワールドを舞台にした物語。



その設定の説明と、登場人物紹介に物語が費やされる。


このあたりがちょっと冗長ではないかと感じる人も多いかもしれないが、

(正直、僕もちょっとそう思った)


そこはそれ。本作は長く続くシリーズのプロローグ的役割を果たしている第一作目なので、


耐えて読まなければいけない。



その分、ラスト近くになって物語は怒涛の展開を見せる。



※ちょっとだけねたばらししますよ。





タイマーに時間をセットするように、被害者の転落死の時間を、ある仕掛けで自動的に行う。


そうすることで自分のアリバイを確保するというのが今回のトリック。


そして、そのタイマーに使われたのは、なんと鉄道。


昏倒された被害者をつるしておき、そのロープを電車の通過によって切断する。


なんとも、大掛かりな物理トリックで、電車を使ったあたりが有栖川有栖さんらしいとも言えるか。


トリックそのものは大胆だけれどある意味シンプルな仕掛けなのだが、


そのトリックが判明することで、それができた人物は誰か……というプロセスを経て犯人がわかる、


という展開がロジカルで好きだ。


(ロープを電車の運転手に見咎められないようにするのが難しい以上……その運転手が犯人)




いずれにせよ、本作の眼目はジツはそこにはない。


この事件を解決したことによって、捕らわれの身となる「調律師」こと空閑誠。


母親が行方不明になり、今また父親までも奪われた純は……探偵になることを決意する。


この物語は、探偵ソラの旅立ちの章なのだ。