「PK」 伊坂幸太郎 講談社 ★★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

彼は信じている。

時を超えて、勇気は伝染する、と――人は時折、勇気を試される。

落下する子供を、間一髪で抱きとめた男。その姿に鼓舞された少年は、年月を経て、今度は自分が試される場面に立つ。

勇気と臆病が連鎖し、絡み合って歴史は作られ、小さな決断がドミノを倒すきっかけをつくる。

三つの物語を繋ぐものは何か。

読み解いた先に、ある世界が浮かび上がる。


PK (講談社文庫)



三つの中編が収録されているとみるべきか、


それとも一つの長編としてみるべきか。



読み方は人それぞれかもしれないけれど、


できることなら、二つの中編をそれぞれ独立したものとして読み、


最後の「密使」を読んで、いろんなエピソードがつながる面白さを味わうのが正解であろう。



※この先うっすらとストーリーに触れます。未読の方はご注意を。





「密使」はタイトル通りの物語である。


過去に「密使」を送り込むことによってタイムパラドクスを起こすことで歴史的改変を行うチームがいて、

(その密使がゴキブリというところが伊坂的センスである)


それよりもっとエレガントな方法で改変を起こそうとする未来人(?)が、


そのプロジェクトを阻止するためにゴキブリを盗み出そうとするわけだが、


その方法というのが、時間スリという超能力(?)を持つ青年に依頼するという、


文章でこうやってあらすじを書くと、面白いんだか面白くないんだか。


っていうか、そもそもなんだこのハナシ、って感じだよな。



でも面白いんだこれが。


「密使」まで読んで、いくつかの伏線が回収されるのも気持ち良いし、


「PK」と「超人」の世界設定が微妙に異なっているのは、


「密使」の結果によりパラレルワールド化した世界だからだということがわかる。


その構造美はさすが伊坂幸太郎というところだ。




本作には超能力もすこしばかり登場するけれど、


キーワードになっているのはどちらかと言えば「ヒーロー」だろう。



緑の戦隊モノのコスチュームを身にまとった「時間スリ」の青年。


「超人」に登場する青い服の男はスーパーマンにそっくり。


彼らの活躍を見るにつけ、ああ日本人というのはやはりヒーローが好きなんだと思い当たる。



最後に、解説に掲載されていた伊坂幸太郎のエッセイを書いておこう。


東日本大震災の直後に書かれた、名文である。




自分にできることは小説を書くことだけだから、


その仕事でどうにか役立ちたい、だなんて、そんな無責任なことは


今の僕にはとてもじゃないけれど言えない。



でも、放射能を怖がる親から命じられ、屋内で過ごすことを


余儀なくされている子供は、


「仮面ライダーオーズ」を観て、仮面ライダーのおもちゃで


楽しそうに遊んでいる。


仮面ライダーがいてくれて、本当に良かった。



そう。


この国には仮面ライダーがいる。ウルトラマンも戦隊ヒーローも。


彼らがいる限りこの国は何があっても大丈夫。