「罪火」 大門剛明 角川書店 ★★★☆ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

伊勢神宮奉納全国花火大会の夜に殺人事件は起こった。

被害者は中学2年生の町村花歩。犯人は元派遣社員・若宮忍。

花歩の母親、町村理絵はかつて若宮の恩師であり、一人暮らしの彼を家族ぐるみで気遣っていた。

なのになぜ、若宮は凶行に及んだのか―。

やがて事件は意外な展開をみせ、若宮と理絵に予期せぬ結末が訪れる…。

人は罪を本当に許すことができるだろうか。

自ら犯した罪を心から悔い改めることはできるのか。


罪火 (角川文庫)



加害者と被害者遺族を結びつけることによって、


被害者遺族のメンタルケアをしようと試みる修復的司法。


率直な感想で言えば、


そんなもんで被害者遺族の感情がどうにかなるもんかとか、


いくら謝られたって許せるわけないだろうとか、


加害者の更生なんて知ったことかとか、


そんな感じ。


いや、もちろん当事者にならないと、本当の心情は理解しきれないだろうけれど。



本作では、修復的司法を勧める女校長が、


自分の愛娘を殺害され、「被害者遺族」の立場になったとき、


どういう心理状態になるのか?


それがこの物語のひとつのテーマだ。



社会派ミステリというのは、そういうテーマが必ず内包されているものだが、


そこにばかり寄ってしまうと、なんだか説教くさい物語になってしまって、


ミステリなのだか何なのだかわからなくなってしまう。



この作品はそのバランスが良い。


テーマとミステリが巧く融合している。



倒叙ミステリ的なはじまり方をする(というか犯人は最初から明白だ)ので、


ミステリ的な面白さにはあまり期待していなかったのだが、


最後の最後で、その想像はとんでもない形で裏切られる。


世界観を180度ひっくり返すどんでん返しが待っていようとは予想もできなかった。



当たり前の社会派ミステリに厭いている人にオススメ。