「獄の棘」 大門剛明 角川書店 ★★★ | 水底の本棚

水底の本棚

しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

獄の棘とは刑務所の鉄条網のこと。

この閉ざされた内部では、外からは窺い知れない様々な事件が起こっている…。

いじめ、内部告発、偽装結婚、脱獄……新米刑務官が見た、塀の仲の真実とは……?


獄の棘 (単行本)



獄中という、非常に特異な環境が舞台のミステリ。


主人公は若手の刑務官で、なぜかキャリアの上司に気に入られ、


刑務所内で起こる事件の調査活動を依頼される。


主人公は、同僚の先輩刑務官たちに遠慮しながらも、事件を調査していくという連作短編集。



読みどころは、刑務所という特別な環境でしか起こりえないような事件の数々。



通常のミステリは、フツーの人々の中に混じった犯罪者を探し出すもの。


ところが、この世界は周り中がすべて犯罪者。


その中から、さらに異物を探し出すというシチュエーションが興味深い。



トリックらしいトリックもなく(唯一、暗号トリックがあったが)、ミステリとしての面白さには欠けるが、


人間ドラマが好きな人にはおすすめかもしれない。



刑務所の中であるにもかかわらず、物語の持つ雰囲気には重厚感はない。


扱っているテーマは重いのに、どちらかと言えばライトな感じすら。




どこにいようと、それが犯罪者であろうと、人間は人間。


そういうことだろうか。