感動ドキュメント「書店員たちの3.11」
震災は、ただでさえ「街の本屋」が消えつつあった東北地方の書店関係者を悲観させた。岩手、宮城、福島の3県で被災した書店は391店。3県の書店数の約9割にあたる。
そんななか、仙台の一部の書店がいち早く営業を再開させたのは3月22日である。流通が止まり、商品は震災以前のものだった。
だが、そこで目にしたのは驚くべき光景だった――。開店前から長蛇の列が連なり、パズル誌、中古車情報誌、お礼状の書き方の本・・・・・・あらゆるジャンルの本が買い求められていた。
それは何も仙台の書店に限った風景ではない。苦難をのり超えて、開店した多くの店舗で、活字に飢えているとしか言いようのない人々の姿が目撃されている。本はただの「情報」ではない。人々にとって「生活必需品」だった。
本書では、大宅賞作家・稲泉連氏が、被災地における書店の「歩み」を記録することで、ネット注文や電子書籍が一般化しつつある昨今の出版界における、書店の「存在意義」そして、紙の書籍の「尊さ」を再発見していく。
文庫版には、震災から3年半を経た東北の書店の「現実」を綴った補章と、本書にも登場する元書店員・佐藤純子さんの特別手記が収録されている。
本書を読んだ感想を上手に書けるほど、僕には語彙も文章力もない。
いち書店員として、ここに登場する書店員のみなさんの想いは、痛いほどよくわかる、
と言ってしまっては不遜に過ぎるだろう。
わかるはずはない。
自分たちがつくってきた売場が、棚が、お店そのものが、一瞬で何もなくなってしまったのだ。
想像することすらできない。
絶望以外に言葉はない。
僕は3.11のとき、まだ現場の書店員で、都心の店舗に勤めていた。
文芸書を担当していた。
地下街の店舗だったので、後で思えばびっくりするくらい揺れが少なかった。
棚から本が2、3冊落ちた程度で、正直そのくらいは地震がなくたって普段から落ちている。
だから、テレビで車や人や家が流されているのを見るまで、「ちょっと大きな地震だったね」というくらいにしか思っていなかった。
その程度の被害だったのに、僕のお店も何日も営業ができなかった。
売りたいものもたくさんあったし、
お客さまだって買いたいものがたくさんあったはず。
最初は、人死にがあるミステリなんかじゃなくって、
もっと明るい本を売ろうよなんて言っていたけれど、
そんなこと関係なく、いつもみたいに、ミステリだって売れていた。
ライフラインを確保することに比べたら、本なんて二の次、三の次、なんて考えていたけれど、
そんなことちっともなくて、やっぱりどんなときだって、本は求められていた。
紙の本はそういうときだからこそ、活きた。
それが希望だと思う。
そして、被災地の書店さんも、それを希望にしていたのだと思う。
これからも。
ずっと。