ゲームブックの原作を200万円で謎の企業イプシロン・プロジェクトに売却した上杉彰彦。
その原作をもとにしたヴァーチャルリアリティ・システム「クライン2」の制作に関わることに。
美少女・梨紗と、ゲーマーとして仮想現実の世界に入り込む。
※思いっきりねたばらしをしています。未読の方はご注意を。
恐怖。
最後のオチはその一言しかない。
「クライン2」ほどのヴァーチャルリアリティ・システムが現実に開発されることはおそらくないと思う。
技術的に無理だと思うし、もしそれが可能になったとしても、法的に許されないような気がする。
(いずれにしても僕の存命中ではあり得ないだろう)
しかし、もしこのシステムが現実のものであったなら、それは恐怖以外の何ものでもない。
どちらが現実で、どちらが虚構なのか。
一度でも「クライン2」の世界に足を踏み込んでしまったら、
自分が壺の内側に立っているのか、外側に立っているのか、それを確かめる術は一切ない。
その後がどうなるのか、僕は知らない。結果を見ることすらできない。壺の内側なら、ゲーム・オーバーになるだろう。外側なら-。
でも、ほんとうは、どちらだっていいことなのだ。僕の本音は、この堂々巡りの意識を、どこかでぶっちぎりたいだけのことなのだから。
「はじめのところから始めて、終わりにきたらやめればいいのよ」
そうしようと思う。
主人公は死を選ぶことで、壺の中から脱出を試みようとした。
だが、正確にはこの連鎖から逃れられるとは限らないのだ。
ここで与えられる死さえもが、クライン2の生み出した虚構の死かもしれない。
唯一、ゲームオーバーを選べるのだとしたら、それは壺の外側にいた場合のみだ。
極端な話、こうしてブログなんぞ書いている僕が今、壺の中にいないとは断言できない。
もしかしたら僕がまだ物心つく前に、誰かの手によって壺の中に入れられ、
そしてそれからの人生のすべてを壺の中で過ごしてきたかもしれない。
僕が歳をとって、いつか死を迎えるときがきて、
そのときに高らかに鳴るファンファーレと共に、
「クライン2」のゲームオーバーを知らされるのではないとは、誰にも言えない。