「Separation きみが還る場所」 市川拓司 アルファポリス ★★★☆ | 水底の本棚

水底の本棚

しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

同級生だった悟と裕子は親の反対を押し切って結婚。

幸せに暮らす二人だったが、やがて裕子の身体に変異が現われはじめ、次第に背丈が小さくなっていった。原因のわからない不思議な若返り現象は進み、徐々に孤立を深める二人。

寄り添いあい、そして待ち受ける哀しい結末へと向かってゆく……。
あらがいようのない“時の逆転現象”のなかで、儚く浮かび上がってゆく二人だけの愛のかたち。


Separation―きみが還る場所 (アルファポリス文庫)





徐々に若返る裕子。


24歳から十代へ、高校生へ、中学生へ。


人妻であるということが不自然な年齢にどんどん若返っていく。


ならばその先に待っている結末はひとつ。


いずれくる消滅と別離。


近い未来に、別れが必ず待っていると知りながら、


それでも離れることはできずに彼女に寄り添っている。


それが、とても優しくて、でも哀しくて。



こういう物語は現実にもある。



いや、徐々に若返るなんていう奇病があるわけないけれど、


その逆で、人は必ず時間の経過とともに老いる。


その過程で、記憶も失い、そして最後は必ず消える。



若返ろうが、老いるのであろうが、必ず最後には別離がある。




別れが来るというだけなら、それは誰にも平等に訪れる。


それは一方が心変わりをしたときかもしれない。


それは一方が亡くなったときかもしれない。


いずれにせよ、そこには永遠は存在しない。


絶対に。



だけど、こんな理不尽な形で、別れを強要されることはない。


誰に、二人を別つ権利があるというのか。


憤らずにはいられない。



この物語は。


理不尽過ぎる過酷な運命に晒されながら、


それでも決して還る場所を見失わなかった、二人のお話。