幻想を愛し、奇行で知られたシュールリアリズムの巨人、サルバドール・ダリ。
宝飾デザインも手掛けたこの天才の心酔者で知られる宝石チェーン社長が神戸の別邸で殺された。
現代の繭とも言うべきフロートカプセルの中で発見されたその死体は、彼のトレードマークであったダリ髭がない。そして他にも多くの不可解な点が…。
※最後にちょっとだけねたばらしあり。
火村の推理によって一人ずつ容疑者が消しこまれていく過程の中で、
同時に、事件の関係者が持つそれぞれの繭が明らかになる。
被害者・堂条秀一の繭はフロートカプセルであり、
彼が焦れる女性・鷺尾優子の繭は占いだった。
相馬室長の繭は女装癖で、アリスの繭は推理小説だった。
この物語の中でアリスが推理小説を書き出すきっかけとなったエピソードが明かされるが、
それはとても興味深く、そして辛い思い出だった。
そして、我らが火村助教授の繭は何だろう?
普通に考えれば、彼の繭はこのフィールドワークだ。
犯罪者たちを断罪することが彼の「かつて人を殺したいと思ったことがある」という想いから逃げ出すことのできる繭なのだと考えることが自然のように思える。
けれど、火村には繭に逃げ込んで欲しくないという思いもある。
逃げずに戦うこと、それが火村にはよく似合う。
余談だが、僕の繭は、きっとボールを蹴ることだろう。
(書店員ならば、そこは読書と言うべきなんだろうなあ……)
昨日、どんなに辛いことがあっても、
明日にどれほど苦しい現実が待っていたとしても、
ボールを蹴っている間だけは、僕はそれを忘れ、夢中になれる。
サッカーとフットサルに出逢えて、本当に良かった。
さて、事件の方は、綿密で精巧に組立てられた、とても丁寧なものだと思う。
死体移動で生じる死斑の変化などを「慎重さによってカバーする自信があったのだろう」の一言で片付けているあたりがちょっと強引かな、と思うくらい。
「もしかすると、そうなのかもしれませんね。ガラは虫が好かないというのは感情の上澄みでしかなくて、女は特定の男の女神になるために生まれてくるわけじゃない、ということが言いたかっただけなのかもしれません」
そうなのだろう。誰だって特定の誰かの何かになるために生まれてくるわけじゃない。
けれど男は女性にそれを求めてしまうんだ、きっと。
-落ちてこい、飛行機。今、私と彼の上に落ちてこい。
そう思った。
伸介の両腕が背中に回り、彼女を力の限り抱きしめた。
せつない。
だけど罪は罪で裁かれなければいけない。
だからせめてこの瞬間だけは二人のものに。