転落死した男は、勤務先でかけられた横領の疑いを苦にして自殺したと思われていた。
しかし、彼の住んでいたマンションで同僚が撲殺され、事件は連続殺人の様相を帯び始める。(表題作「暗闇の殺意」)。
稀代のトリックメイカー中町信の遺した短編から、書籍未収録作品を含む7編を精選。ミステリーファンに愛された作家の、絶妙なトリックと、軽妙な味わいが冴えわたる。
中町信さんは、もっと生きていてほしかった作家さんの筆頭です。
2009年、肺炎での逝去。
「模倣の殺意」が書店での仕掛によって大ブレイク。
当時はまだ現場の店舗にいた僕は、このブレイクをとてもうれしく思った。
僕は「模倣の殺意」がとても好きだったから、たくさんの人がこの本を読んでくれると知ってうれしかった。
でも同時に。
なんで今さらとも思った。
こんな言いぐさは不遜だとわかっているけれど、
中町信という稀代のトリックメイカーは存命中に、もっと高い評価を受けてほしかった。
だから、こうやって過去の作品がまた世に出てくるのはうれしいと思う反面、ちょっとさびしくも思う。
特に、「模倣の殺意」のヒットに乗っかる形でタイトルを「~の殺意」と改めて出版されるというカタチにはちょっとばかりフクザツな気持ちになる。
本書は、昔ながらのミステリという感じ。
アリバイトリックもダイイングメッセージもどこか牧歌的。
昭和の、古き良き時代のミステリという印象。
抜群に面白いというわけではないけれど……でも、たまにはこういうのもいい。