興信所の調査員、宮本と美貌の東大生、加奈は美大浪人生の昌史を東京芸大に合格させるため、センター試験で完璧なカンニングを実行する。
しかしそれは、区議会議員である昌史の父親を失脚させるために巧妙に仕掛けられた罠だった。
全てを失った彼らは復讐のために十億円を賭けたポーカーに挑む。
著者が「最初はカンニング小説を書くつもりだった」と語っている。
その通り。
前半で描かれるカンニング大作戦は、ある種の技術を持った人間がその気になって挑めば実行可能だと思われるような、精緻なもの。
まさか現実でやる人間もいないだろうけど。
このままカンニング小説でも十分面白かったのではないかと思う。
でも、本作の本質がコン・ゲームである以上、重要なのは後半部分。
そこで行われるイカサマポーカーは「Sting」というよりも、漫画の「賭博破戒録カイジ」そのものだ。
(これは著者自ら「意識した」と書いている)
手札を覗き込むという手口自体は確かに有効かもしれないが、相手がマジシャン張りのすり替えテクニックなどを持っている以上、あまり意味がないよなと僕は心配をしていた。
そして僕の心配は見事に的中する。
最後には見事な逆転劇があって、それは予定調和的で予想の範囲だったが、がっかりするというよりはむしろそうあってくれて良かった、という感想を持った。
昌史が本物の馬鹿じゃなくて助かった。
最後の宮本と加奈のロマンスはほとんど不要。
もっとスマートで純粋なコン・ゲームのままで終わらせてもよかったのに。
そういう意味ではそもそも、宮本と加奈の関係性もあまり意味がなくてもっとシンプルでいいと思う。
このあたりがごちゃごちゃっとしてスマートさとスピード感に欠けるのがちょっと残念。
とはいえ、十分満足させてもらえた。
これぞコンゲームという典型的なストーリーなので、コンゲーム好きにはお勧めできる作品。