差出人不明で、東北の山荘への招待状が六名の男女に届けられた。彼らは半信半疑で出かけて行く。雪に埋もれ、幸福感に酔っていた彼らはやがて恐怖のどん底に突き落とされた。殺人が発生したのだ。しかも順々に…。クリスティ女史の名作「そして誰もいなくなった」に、異色の様式で挑戦する本格推理長篇。
何度も再読をしている一冊です。
今読み返すと、初読のときの衝撃はさすがにないし、細かい部分でアラが見えてしまうのですが……それでも本作が色褪せない名作であることに変わりはないと思います。
たとえば、同種のトリックがさまざまなヴァリエーションでつくられている今、「アクロイド殺し」を今さら読んでもなかなか感動を得ることはできないでしょう。
だけど、それで「アクロイド殺し」の価値が下がるわけではない。
「アクロイド殺し」が発表されたときに、それを読んだ人たちが受けた衝撃は、何にも勝るものでしょう。
本作も同じです。
これを初めて読んだときの僕の衝撃は、今でも忘れられません。
本格ミステリというのはこんなに面白いものかと、心から感動しました。
西村京太郎だから…と偏見を持っている方がいたら、それは間違いだと断言してもいいです。
惰性で書かれたような、多くの作品群と本作はちょっと毛色が違います。
西村京太郎の初期作品は、読み応えのあるミステリがかなりあるのです。
ところで。
この作品が異色なのは、冒頭で作者がメイントリックを明らかにしていることです。
曰く。
「この小説のメイントリックは、双子であることを利用したものです」。
後出しの「双子のトリック」にケチをつけられないためには、宣言をしておく必要がある。
でも「双子のトリック」であることを宣言してしまっては、トリックが台無しだ。
ならば……ということで、考えられたであろうこの手法。
読者に対してフェアであることが、そのまま目くらましになっているという構造がとても面白いと感じる。
また、動機面のミッシングリンクを含め、そこら中に張りめぐらされた伏線、法で裁くことのできない犯人を追い詰めていく警察の作戦など、読み応えは十分。
西村京太郎を「喰わず嫌い」している人にぜひ読んでもらいたい一冊です。