「わたしは横領着服などしていません…」
無実を主張し、波照間島から去った謎の女性。樫栗芽依と名乗った彼女は、未使用の偽札を残して姿を消した。
鑑定家に徹しきれない自分を恐れ、事件に関わることを避ける凛田莉子。
だが、小笠原悠斗には島からの撤退命令が出ていた…。
悠斗への想いと自らの道を確かめるため、莉子は再び「万能鑑定士Q」として、羽ばたけるのか?
「このシリーズって終わってないの?」
「終わるもんか。これから実写化だってあるんだぞ」
「でもさ、前回で莉子は故郷に帰っちゃったじゃん。
沖縄本島ならともかくさ、いくらなんでも波照間島で莉子が活躍する事件なんて起こらないでしょ?」
「まあ、それは確かにねえ。
でも、事件のほうから莉子を追ってくるってこともあるんだぜ。
事件が名探偵を呼ぶのか、名探偵が事件を呼ぶのか。それは永遠の謎だけれどね」
「ふうん。波照間で実際、どんな事件が起きたわけ?」
「波照間に莉子を追ってやってきた事件の名は、樫栗芽依。
彼女は銀行員なんだけど、取引先から預かった五千万円を奪って逃亡した容疑者。そして、未使用の偽札を残して波照間からも姿を消したんだ」
「なるほど。でもそれだと、波照間にいては事件はとうてい解決できないよね」
「そう。だから莉子は再び本州に戻った。もちろん、悠斗も一緒だ」
「まあ、そうなるよね……」
「なんだ? あまり関心なさそうだな?」
「だってさあ。なんか、パターン通りって感じがしてね。
莉子と悠斗の仲だって、こじれたり元の鞘に戻ったり、ありがちな恋愛のパターン。結局、結末が見えている物語を読まされているようなものなんだよね」
「まあ、基本パターンは何作あっても同じだからな。
でも、それはシリーズ物の宿命じゃないか? どんなシリーズだって長く続けていればいつか水戸黄門みたいになっていくんだよな」
「そりゃ確かにそうかもしれないけどね。
でもさ、このシリーズって刊行ペースがはやいじゃない? 普通はシリーズ物のミステリって言ったらさ、次が出るのを首を長くして待たないといけないものだけど。
短期間に似たような話を続けて読まされると、正直ちょっと飽きがくるよね……」
「珍しく辛辣だな。読者に飽きられるのもシリーズ物の宿命だよ。
でもさ、新たなライバルを出したり、かつてのライバルが味方になったり、ヒロインの成長があったり、それなりにストーリーに彩りをつけるために工夫はしていると思うけど」
「でも飽きた」
「まあ…そういうなら仕方ないけどな。
しばらく読むのをやめておいて、あとで何冊かまとめて読むのもいいんじゃないか?」
「うん、そうするかなあ」