「永遠の出口」 森絵都 集英社 ★★★☆ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

「私は、“永遠”という響きにめっぽう弱い子供だった。」

誕生日会をめぐる小さな事件。黒魔女のように恐ろしい担任との闘い。ぐれかかった中学時代。バイト料で買った苺のケーキ。こてんぱんにくだけちった高校での初恋…。どこにでもいる普通の少女、紀子。

小学三年から高校三年までの九年間を、七十年代、八十年代のエッセンスをちりばめて描いたベストセラー。

第一回本屋大賞第四位作品。




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本屋大賞のノミネート作品が出揃い、我が書店でも全タイトルを面陳列していますが。


そういえばこの本も本屋大賞ノミネート作品だったなーなんてふと思い出して再読しました。


(※感想の中で内容に触れています。未読の方はご注意を)


主人公の紀子ちゃんは――たぶん彼女のほうが歳上なんだけど――僕も、まあ同年代といっていいと思います。

だから物語に散りばめられたちょっとした小道具なんかが、懐かしかったりして楽しめました。たぶん紀子ちゃんと同年代の女の子だったらもっと楽しく読めるんじゃないでしょうか。


第一章から第三章は紀子ちゃんが小学生のころのお話。


子供のころって、概して女の子のほうが男の子よりも早熟。常に女の子のほうが一歩も二歩も前を歩いていました。
僕らがまだロボットアニメに夢中になっているころに、女の子たちは歌番組を観てアイドルにキャーキャー言っていたし、服なんて親が買ってきたものを着るもんだと思っていた僕らに対して彼女たちは「その服可愛い」なんて言い合ったりしていましたね。


だから、人間関係だって小学生のころはこれっぽっちも悩んだりしませんでしたよ。それなりにイジメとかあったけど、イジメられる対象もイジメる側のリーダーも必ず女の子。僕らはそれを「我関せず」という感じで傍観していましたが、それってやっぱり女の子たちのほうが良くも悪くも大人だったんだなあと思います。

ちいさなアタマでいろんなことに悩み頑張っている紀子ちゃんの物語を読んで、そんなことを思いました。なーんにも考えてなかったなあ、小学校のころなんて、って。


第四章以降は紀子ちゃんが、中学から高校へと進んでいきます。


紀子ちゃんは本当に真っ当に青春しているなって思いました。楽しいことばかりじゃなくて、それなりにけっこう大事件もあったりするんだけど、でもやっぱり羨ましいな。


たとえば僕は高校生のころ、アルバイトをしたことがありませんでした。部活で精一杯で、アルバイトに回す時間も体力もなかったから現実的に無理だったのですが、でもやってみたかったな。あのころに働くってのはたぶん、今働くってこととはすごく意味が違うと思うし。

若いころって、若いころにしかできないことがあるって大人は言うけれど、それは大抵のことには適用されないと思います。
現に勉強だってスポーツだって読書だって、僕は大人になった今もできているし。
だから、たとえば馬鹿みたいに羽目を外して遊ぶとか、アルバイトにうつつを抜かすとか、そういうことだけが若いころにしか出来ないことなんじゃないかなって思うのです。大人が言うところの「若いころにしか出来ないこと」はたぶん、そういうんじゃないけどね。


それを考えると紀子ちゃんの九年間はとても羨ましいですよ。彼女は良くも悪くもそのときにしか出来ないことをやってきたんだなって。


「でも、心配すんなよ。就職組や受験組がどっか遠くにいるみたいに、俺たちも来年は必ずどっかにいるんだからさ。今はなんにも決まってなくても、いやでもどっか遠くにいるんだからさ」


「遠くに?」


とっさに天頂へ目を馳せた私に、元道は「おう」とこともなげに言った。


「だって、宇宙は膨張しているんだぜ」


僕、こういうあほうなポジティブシンキング好きです。

自分が立ち止まっていても地球はものすごいスピードで外宇宙に向かって進んでいる。僕が生まれた場所にはたぶん今は違う星がある。こうして読書感想文なんか書いている今も、僕の足ではとうてい進めないようなスピードで僕は進みつづけている。


ま、それは確かにそうなんだけどね。それって進路が決まっていないことの慰めにならないだろ。
ならないのに、それを臆面もなく言ってのける元道クンの思考回路が僕はいいなって思いますよ。