(内容紹介)
海と山に囲まれた、風光明媚な街、蝦蟇倉。この街ではなぜか年間平均十五件もの不可能犯罪が起こるという。自殺の名所に、怪しげな新興宗教や謎の相談屋。不可能犯罪専門の刑事や、とんでもない市長、そして無価値な置物を要求する脅迫者……。
様々な不可思議に包まれた街・蝦蟇倉へようこそ!
今注目の作家たちが、全員で作り上げた架空の街を舞台に描く、超豪華競作アンソロジー第一弾。
「蝦蟇倉」という架空の街で起こる事件――というゆるーい縛りのアンソロジー。
縛りのキツいアンソロジーの場合、与えられたテーマを遵守しようとして物語そのものはとても強引な展開になっていることがしばしばあります。
でもこのくらいの縛りなら、作家さんは自由に書きたいものが書ける。そういうアンソロジーのほうが結構期待できるんだよなあ。
僕の目当ては道尾秀介さんと伊坂幸太郎さん。
この二人の作品が載っているというだけで僕にとっては十分購入する価値あり。
アンソロジーの一番バッターは道尾秀介さんで「弓投げの崖を見てはいけない」。
最新作「球体の蛇」では今までとちょっと違った顔を見せた道尾秀介さんですが、この作品は「いかにも道尾」という仕上がりになっています。
というより、作品に仕掛けられたトリックが道尾秀介さんらしいのかな。
ラストシーンも完全に道尾節。
あとがきのコメントではラストシーンで起こったことはヒントを頼りによく読み返せばわかるようになっていると書かれていましたが……僕はまったく読み返さずに、わからないままにしています(笑)
まあ、面倒だというのもあるのだけれど、このラストはわからないままのほうが合っているのではないかという気もするしね。(←言い訳?)
で、道尾秀介さんに続くのは伊坂幸太郎さんの「浜田青年ホントスカ」。
なんだ、このタイトル?
まあ、伊坂幸太郎さんらしいと言えば「らしい」のだけれども。
大型スーパーの駐車場に建てたプレハブ小屋で「相談屋」という、役に立つんだか立たないんだかよくわからない商売をしている稲垣。
そこにアシスタントとして居候することになった浜田青年。(彼の口癖が「本当っすか」なんですね)
相談屋という商売そのものがそもそも荒唐無稽なのに、物語はどんどん奇妙な方向に進んでいって……ああ、伊坂ワールドだなあと実感することができます。
物語中盤で思わずドイルの有名な短編を連想させられるような展開になりますが……着地点はまったく別物。
まあ、伊坂幸太郎さんだしね。フツーの終わり方をするとは思っていなかったけれど。
道尾秀介さんの作品同様、伊坂幸太郎さんの「らしさ」を楽しむことができる作品だと思います。
他には大山誠一郎さん、伯方雪日さん、福田栄一さんの作品も載っていて読み応え十分。第二巻にも期待ができます。