夏樹は都内の書店に勤めて5年になるが、いまだにアルバイト店員のまま。
17歳のときの援交体験がもとで、人間関係をうまく築けないでいる。
寂しさを埋めようと年上の既婚者や出版社の営業担当と付き合うが、心の隙間は広がるばかり。
そんな折、夏樹は店で中年女性の万引きを目撃し、大学教授の妻である彼女の家を訪ねる。そこで夏樹が出会ったのは崩壊家庭の中で自らを確かに保って生きようとする高校生の光治だった。
期待の女性作家が描くアンチ純愛小説。
バカな女がバカな男たちに翻弄されているという…ただそれだけの小説。
夏樹は何度もバカな男に見切りをつけて立ち直るかに見えて、
メールひとつでまたほいほいと呼び出されて行ってしまう。あきれるしかない。
何も僕はモラル的観点から夏樹を批判しているわけではないのだ。
誰とでも簡単に寝る夏樹を肯定はしないけれども、否定もしない。
僕は、もっと楽で、楽しくて、明るい道があるのに、
夏樹が自ら進んでろくでもない方向に歩いていくところに憤っているだけだ。
それでも、彼女自身がそれを望んでいるのならば、致し方がない。
でも、夏樹は自分のおバカな行動を後からきっちり嘆き、悲しみ、落ち込み、後悔している。
なのに、一日もたてば、そんな後悔など忘れてしまい、また同じことを繰り返す。
その破綻ぶりにイライラするのだ。
物語そのものも夏樹同様、破綻し迷走しまくっている。
正しい道筋を敢えて逸れていくような……そんな感じがする。
まっすぐに生きていく光治に出会って、
自分もまっすぐで明るい道を歩きたいと夏樹が願うようになる……
とかいうのがたぶん、まっとうな小説の展開。
でも残念ながら、そうはならない。
もちろん、それは作者の意図したことだろうし、
この物語の眼目は「アンチ純愛」にあるようだけれど、
僕は個人的には好みではない。
僕はもっと論理的で、まっすぐな物語が好きだ。
女性作家にありがちなのだが、何の計算もなく感性だけで書いたような恋愛小説は苦手分野なのだ。
ではなぜ本書に手を出したか?
その答えは簡単。
夏樹が書店員だから。
夏樹は人格は破綻しているけれど、本を愛しているから。
その愛と想いを。人間に向ければいいのになあと思った。