思わず振り返る。そこには立ちながらまた煙草を吸っている華苗さん。
「そーやってさぁ、小さい事で悩んでるのって、ガキだろ。どう考えたって」
「ちっ」
そっぽを向く。反論が出来ない。ある程度の自覚があるから。
「だって、まだ。見つけてねぇんだろ? 『前だけ見て生きろ』の答えが」
「……」
「アタシはね。そんなのの回答は知らないさ。だけど、ま。アンタの言いたいことも分かる」
「?」
「後ろを振り返るのもまた勇気さね。過去に捉われんのもよくねーが、全く過去の自分封印して無かったことにするような行為が嫌だってこったろ。多分」
華苗さんのその言葉は妙にしっくりきた。
「そりゃそーさ。そーじゃなきゃ歴史は習う意味ねーしな。そういう物を全部包み込めるくらいじゃねーと、強くなんなきゃな」
そう言うと華苗さんが俺の頭をわしゃわしゃと撫でてきた。
「……」
「ま、そーいうこった。悩め、悩め、若者君っ!」
愉快そうに笑って家に帰っていった。

 あの日以来、何年も経ったけど未だに答えなんて出てこない。それもそーか。
俺の人生これに悩み続けて終わりそうで若干怖い。
だけど、それも悪い気がしない。嫌だけど。
あーあ、なんでこんなにも世界も、俺の考えも矛盾してて嫌になるわぁー。
それを華苗さんに言ったら、彼女はまた愉快そうに頭を撫でて、一言言った。

「世界なんて所詮そんなもんだよ」