その日は、あいにくの雨だったが、

昔の友人たちとの飲み会だったので

さほど影響はなかった。

 

飲み会と言っても、

年に一度に集まる定例会みたいなもので、

ダイの大人が数人集まって、酒呑みながら

近況を報告しあったりする、

仲間内の同窓会みたいなものである。

 

仕事がどうの、だとか、

上の子が、高校受験だとか、

新しい車買った、だとか。

 

そして決まって、

最終的には、

あの頃こんなことがあったなー!

だとか、

あんなことしたなー、、

だったり、

若き日の武勇伝的な話になる。

 

あれ?これ、一年前に集まった時も

この話してなかったっけ??

というか、一年前にも、

さらに一年前にもこの話してなかったっけ???

 

となるので、この時間は、

集まったみんなには悪いが

とてもくだらない時間だな。と思う。

 

何人もいるのに、誰ひとりとして、

未来の話をしていない。

 

そう思うと、早く帰りたくて仕方がなくなる。

 

そんな思いが通じたのか、

終電の時間になったので、

会はお開きとなった。

 

家路を急ぐ、酔っ払ったくたびれたサラリーマンに紛れながらも、電車を乗り継ぎ、

自宅のある駅に辿り着いた。

 

こんな日は、いつもと違う道を通って帰りたくなる。

 

少しひと気のない、路地をゆっくり

帰ることにした。

 

その路地は街灯が少なく、

ちゃんと税金払ってるのに、なんでここはこんなにも街灯が少ないんだろ?

このクレームは一体誰に言えば、

どこに電話すれば良いのだろ?

なんて思いながらも、

一回も電話したことなんてなかった。、

そう思っていたら

暗闇から人影が出て来た。

 

こちらを向いて何か言ってるようだが、全く聞こえない。

なぜなら、

僕は耳にイヤホンをつけて大音量で音楽を聴いているからだ。

 

イヤホンを外して、

耳を傾けてみる。

 

「お前の未来が見える!!」

 

暗闇でよく見えないが、

白髪の長髪で、髭面の初老の男のようだ。

 

初老の割に体格はガッチリしていて、

若い頃になにかしらのスポーツをしていたことは安易に想像出来る

 

今日はお酒を呑んで、ホロ酔いなのと、割と退屈な時間を過ごしていたので、

このまま男の話に耳を傾けることにした。

 

「お前の未来が見える!!」

 

声がしゃがれてはいるが、滑舌はハッキリしていた。

 

「どんな未来ですか?」

 

ひとまず聞き返してみた。

 

「よくない未来じゃ!

ただ、よくする方法もある!」

 

ま、まさか、壺を買えとか言うまいな?と、思いながらも

男の次の言葉を待つことにした。

 

「今の不満はなんじゃ??」

 

「何をするにも時間が足りないことですかね、、」

 

「そんなに時間を使って何になりたいのじゃ?」

 

「何になりたいとかではないですが、

今やってる自分の音楽が、少しでも多くの人の耳に入れば良いかな、って思ってます。

だからと言って売れたい!!と思ってる訳ではないのです。純粋に自分の音楽をつくり、それを聴く人が、何かを感じてくれたら、、、」

 

知らない男にバカ正直に答えてる自分がなんとも滑稽だな。と思いながらも言葉を続けようとしていたら、

 

男がそれを遮るように、発した。

 

「では、その代償になにを差し出せるかな??」

 

「代償??」

 

昔見た映画で、

悪魔に魂を売って、音楽的に世に名を残したものの、その代償で

27歳の若さでこの世を去るという物語を見たことがある。

 

もしかしたら、この男は、悪魔?

だとしても、

僕は27歳をとっくに過ぎている年齢である。

 

「取引先とクールに仕事をこなす

ビジネスマンじゃあるまいし、

俺はアーティストなんだ!!

取り引きになんか応じないし、

そんな取り引きで易々と手に入るものなんていらない!!」

 

「ギブアンドテイクは世の中の常識なんだよ!坊や!」

 

「くだらん常識なんてクソくらえだー!!」

 

終始、落ち着いた雰囲気の男だったが

最後の僕の言葉を投げつけた瞬間に、

殺気だった顔つきに変わったのを、

僕は感じた。

 

と、思った次の瞬間、

僕は体を倒され、

男は僕に馬乗りになっていた。

 

見えないが、首筋には、

刃物のようなものの、

冷たい感触があった。

 

突然の出来事になすすべもない僕に

静かに男はこう言った。

「代償を頂くよ。」

 

首筋にある

冷たい刃物が

僕の頸動脈を

静かに突き破ろうとしている。

 

もがけばもがくほど、

刃物が首筋に食い込んでいく。

ギシギシと残酷な音を立てながら。