mayaのブログ 新館

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ブhttps://ameblo.jp/severus109/ から引き継いだ別館です。
紅茶におかきを浸して思い出せるようなことを綴れればと思います。
目指したいのはぬくい隠居部屋。ログの説明を入力します。

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いろいろなことがいつもどおりではなくなってしまった2020年。
歌舞伎座も四部構成総入れ替え制を維持したまま12月公演となりました。

いろいろあったけど、最後くらいは例年通り観納めたいなと思い、
多少寒くても外に近く換気のよさそうな席(1階18列上手側)で鑑賞。
斜めに舞台中央を観るのと、前列と高さの差がけっこうあって見やすい席でした。

第四部は近松門左衛門の『日本振袖始』。
日本神話のスサノオが出雲でヤマタノオロチを退治した話がもとになっています。
今回はまず定式幕が中央にぎゅっと集まって上手下手が少しずつ開いて、
村人たちが出てきて状況説明をしてくれます。

岩永姫が変じた大蛇の化身・八岐大蛇(玉三郎)が毎年村から若い娘を生贄に出させる。
出さないと村に禍が起こるので村人たちは娘を差し出している。
今年は稲田姫(梅枝)が選ばれた。
しかし今年はいつもと少し事情が違います。

岩永姫は以前に素盞嗚尊(スサノオ 菊之助)から十握の剣を奪っていました。
これを取り返したい素盞嗚尊が稲田姫に羽々斬の剣という剣を授け、
ひそかにこれを持って行き、大蛇の咢を刺し貫けと指示してあったのです。
楚々とした風情ながらミッションを帯びた稲田姫。
梅枝の稲田姫ならきっと大丈夫って感じがする。

生贄の台に伏す稲田姫を薄物を被って現れた岩永姫が見つける。
するするするっとすり寄って、一飲みにしようと口を開けたところで動きが変る。
当たりに置かれた八つの酒入の甕に気が付いたのだ。
口をかっと開けたから酒の香りもばっと入ってきちゃったのかも。
酒飲みがいい酒を見つけた顔になってしまった。
稲田姫を後回しにして酒の甕を経巡る岩永姫。
すっかりいい気持ちになって髪も乱してゆるゆると踊り始めます。
雲間から月も現れいい感じ。
寄って乱れる足さばきがそのまま蛇の動きのようになっていき、
身体も変化して二股に分かれた角を二本付けた頭が八つの八岐大蛇になってしまいました。

玉様の顔がもう誰だかわからないような怖く醜い顔になってしまいました。
稲田姫は祈りますが、そんなものは効き目なく、岩永姫は稲田姫をぱっくん!
呑まれる前の稲田姫の反りと上から覆いかぶさって来る岩永姫の圧がすごい!

…で、素盞嗚尊はまだか!?
稲田姫が呑まれちゃってから素盞嗚尊は松明を持って登場です。
たぶんこれも作戦で八岐大蛇が十分に酔っぱらうのを見計らって出てくるのです。
稲田姫はどうなるのよって思うけど、最初の作戦通りに呑みこまれてるから大丈夫だってことなんだと思う。
呑まれる前に助けてあげるからって約束だったらひどいよね。
八岐大蛇は玉三郎と七人の役者さん(八大・右佐次・京純・新次・音蔵・右田六・音幸)が連携しているのですが、
八人で大きな蛇体になったり、分かれて八つの頭になったり、金と黒の鱗の衣装で華やかなモンスターっぷりです。
素盞嗚尊に巻き付いてクリスマスツリーみたいにもなっちゃいます。
流れる簸の川と松林の夜を背景におどろおどろしくも美しい。
何より菊之助の素盞嗚尊が美々しいです。
高天原で大暴れをして姉の天照を怒らせた人とは思えない。
素盞嗚尊と戦って形成が不利になった八岐大蛇、
弱ったところで呑まれた稲田姫が最初の計画通り羽々斬の剣を掲げて飛び出してきました!
しかも盗まれていた十握の剣も手に入れて。
すごいわ、稲田姫!!

二本の剣を取り返してご満悦の素盞嗚尊。
楚々と控える稲田姫。
そして上手に断末魔でもがきながらも最後の執念を燃やす八岐大蛇、幕。
稲田姫、LOTRのエオウィン姫みたいにカッコいいなとか、
岩永姫の動き方ってバジリスクみたいだなとか、
ファンタジーの世界をたっぷり楽しめた一幕でした。

この一幕の楽しさにだけでなく、無事に歌舞伎座が千穐楽を迎えられたことが嬉しくて、
そして客席の皆さんもおそらく同じ気持ちで、万雷の拍手鳴りやまず。
それにこたえて再び幕が開き、「日本振袖始」出演者の皆さまから客席への礼がありました。

お互いに伝えたい想いが沢山ある舞台であり、劇場だったと思います。
千穐楽まで漕ぎつけられて何よりでした。