尾崎紅葉 「三人妻」 第10編 | 七転び八転び!? 15分で1冊 

七転び八転び!? 15分で1冊 

人生、いいことの方が少ない。

「薬害エイズ訴訟」の体験とそれまでの過程、読書の感想と要約をを綴ります。

紅梅は相変わらず麻子に取り入りお艶は体を大切にして葛城商社は益々好景気で年越しした。
1月22日の朝お才はなかなか起きられなかった。
そこへ余五郎家の執事永田集が馬車を飛ばしてきてご主人様が会いたがっているのですぐ来てほしいと言う。
お才は馬車に乗り連れて行かれたのは染井という別荘だった。
初めて来たところだが余五郎はいなかった。
お才は一人残されしばらく待つ。
そこへ余五郎ではなく山瀬が来る。
お才は余五郎は来る気は無いと感じたが一応ご主人様はいつ来るのかと聞く。
山瀬はくくっと笑い野暮な、それくらいわからないのかと言い、かの一件がバレたぞと言われお才は冷や汗を流し俯いてしまう。
それ程まであの男が好きかと言われ赤面してしまう。
山瀬は主人に面目ないと思わないのかと言い一度だけはと粋な処置とは思わなかったのかと聞く。
義理を欠いたことで仏も堪忍できないことだ。
お才は頭を上げ言われることは胸にこたえ反論する余地もない、主人の思うままにしてもらいたい、
昔なら首のない女になっていたのだろうからと声は朗らかで悪びれる様子はない。
山瀬は恩を忘れ義理を捨てる憎き女だがその覚悟と殊勝さが気に入った。
要のない女だから好きな男のもとに放り出したいところだが葛城様が世間に恥をさらすことになり名折れとなる。
当面はここに住んでもらい改めてお才の意見を聞いたうえで処分を決めると言う。
荷物はここに運ばせると言うがあらゆる覚悟をしていたお才としてもさすがに驚いた。
半日もいられないようなこの家に居続けるのかと思うと泣けてきた。
山瀬は先ほど出迎えた清浦という老人を呼びこの男が世話をすると言う。
その後午後に見張り番となる夫婦も来る。
その後大谷伝内がお才の荷物を持ってきた。
伝内にお仲はどうしたかと聞くと本家の命令で暇を出したと言ってさっさと帰った。
お才は独りぼっちになる。

2月の初めにお艶は男の子を産む。
余五郎はとても喜び毎日通い紅梅のところに行かなくなる。
紅梅はこのままではうかうかしてられないと思うが何もできない。
庭で梅を見ているとそこに突然麻子が現れ亀井戸の梅を一緒に見に行こうと誘われる。
馬車に乗ったがまるで貴族が乗ったかのように通りの人は見とれていた。
馬車の中でお才の件を聞かされ敵討ちができたと内心喜んでいたが、紅梅はわざと驚きそんな人だとは思わなかった、あの程度で済んだのは主人のご慈悲、あんな人のこない田舎に住むとは、と気の毒そうに言うが少しは良い薬になっただろうと思っていた。
聞けば何で見どころのない男に惚れたのか分からない、実にためになる話ばかりだ、と聞く。
亀井戸についても梅を見るより人に観られ鬱陶しかった。

馬車に乗りお才は片付いたお艶はどうしようと考えた。
器量が良いわけではなく男を煽てる手管も無くただ従順だけが取り柄の女だが子が生まれただけに将来が怖い。
お艶も追い出したいがあの大人しいのが麻子のお気に入りでどう口実を作るかが難しい。

2月の松にはお艶は子供と一緒に本家に来て久々に紅梅に会い麻子と代わる代わる子供を抱き喜ぶ。
紅梅の様子をすっかり信じたお艶は近々会うことを約束する。
4、5日後紅梅はお艶の家に行く。
数日後も一緒に遊んでよそ目には姉妹のように見えた。
お艶が本家に出入りして麻子と仲良くなるのを避けたかった紅梅はいかに麻子が嫉妬しているかをお艶に吹く。
葛城家は男が生まれると子供が病気になるので麻子は顔には出さないが憎んでいるだから近寄らないにこしたことはない、男のが生まれるように祈っていたのは異様だと言う。
明日にも身籠ることがあるならば本家の門を通らない方がいい、外出の用があっても三度に一度は出るな、麻子は元は卑しい身分なので随分乱暴なことをしてきて麻子の恐るべき気性を開かせたのでお艶はおっかけ信じてしまう。
紅梅は本家に行ってはお艶のことを褒める。
それはいきなり悪いことを言えば妬んでいると思われるからだ。
それでも麻子も紅梅のお艶に対する悪い噂を少しずつ信じお艶も本家から呼ばれても渋ったりするので麻子もやはりと思い始める。

6月になって仕事で神戸に行くが本当は家族で海水浴に行くはずだった。
麻子は余五郎の帰りを待つまでもなく紅梅を誘う。
紅梅はとても喜び明日行くので支度をしにと帰ったが自分の家ではなくお艶の家に行く。
そして今急に本家に呼び出されたら主人の留守をいいことにこれから別荘に行きお供することになった。
有難迷惑だが嫌だと言えば立腹するに決まっているので行くことにした。
お互い10日も会わずにはいられない仲なのに1、2か月も出かけるとはつらい。
もし別荘から遊びに来いと言われてもいかない方がいい。
あのお方は主人がどうなってもあなたまで憎いようなことを言うくらいだ。
これを聞いたお艶は涙をこぼす。
お艶はよく言ってくれました、奥様は私はそのような女だと思っていたのかたとえ嫌われても主人に好かれさえすればいいと言う。
紅梅のことは主人には言うなと言う。
お艶はあなた様の言う通り別荘から要請があっても行かない、と言い紅梅はこちらから麻子の手前、手紙は出さないがあなたからは手紙を送ってくれと言う。
奥様に好かれているあなたに一日でも伴ってみていられたらどんなに楽しいでしょう、と言えば紅梅は呆れ顔。
望みならどこへでもお守りしたい、聞いて極楽、その身の地獄、我の気も知らないでよくそんなことをと聴かせたい人があるのにここに蓄音器が無いのが恨めしい。
別荘には食べ物も風景も良いが長くは持たない。
目も慣れてしまい富士山もただ高いだけ、涼しいことが取り柄で20日我慢する。
紅梅はお艶も行きたがっていた、呼んで人が増えれば楽しいのではないか、と麻子に言うので麻子はお艶に手紙を出す。
付き人の岩田に手紙を持たせお艶は手紙を読むがなぜそこまで奥様は私を苦しめるのかと思った。
お艶は金之助が具合が悪ので行けない、回復したら行こうと思う、と手紙を書いた。
麻子も具合が悪いのなら仕方がないと思ったが付き人の岩田に様子を聞くと普通に寝ていると言う。
お艶は何を考えているのかと紅梅に麻子は手紙を渡すが紅梅はわざと考える振りをする。
紅梅は金之助の病気と言うのはいざ知らずまずは東京に帰って様子を探るべきと言う。
麻子は金之助が病気なら仕方がないが最近は呼んでも何かに理由をつけてこようとしない。
紅梅一人を誘ったから拗ねているのかそれとも主人ではなく我に呼ばれたくらいで駆けつけるような安い身分ではないと言いたいのか。
男の子を産んだ手柄からか傲慢になることはよくあることだったが妾のくせして奥方に睨まれても大損とは思わず主人だけでいいとは憎む気はしないが紅梅には及ばない。
お艶は金五郎のいない心細さが通じたのか東京に用があるとの電報が入り別荘に寄らず金之助のいる東京に行く。
余五郎は明日は一緒に別荘に行こうと言われたがお艶は金之助の病気を理由に先日断ったので申し訳ないと言うとそれなら日光に行こうということになる。