「下山事件 ー最後の証言」の感想 | 七転び八転び!? 15分で1冊 

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人生、いいことの方が少ない。

「薬害エイズ訴訟」の体験とそれまでの過程、読書の感想と要約をを綴ります。

・感想


複雑だがとりあえず読み応えがある。


当然小生はリアルタイムではこの話は知らない。

知ったきっかけは小学校のとき偶然見たテレビドラマだった。

そのミステリーさにすっかりはまってしまった。

犯人を知りたい、とずっと思っていた。

そのテレビドラマでは合理化反対の国鉄労働組合員による他殺と言うオチだったと記憶している。


史実として敗戦後日本に乗り込んできたGHQは日本の天皇制・右翼思想がアメリカを苦しめた軍事力に繋がったと分析し、戦中に牢屋にぶち込んだ左翼思想者を右翼思想押さえ込みの道具として恩赦という名目で釈放する。

ところが左翼内閣が誕生するなどGHQの想定外の左翼の活躍で慌てる。

「反共の砦」という本来の目的が崩れそうな状況で「下山事件」は起きる。

そこで組合員による共産分子犯人説が流布。

「共産主義=危険分子」という意識が国民に植え付けられ左翼思想は一気に沈静化する。

その下敷きがあった上で後の安保締結に繋がる。


著者はそのことを矢板玄にぶつけると「ノー」と明確に否定する。

「それは結果論だ。もっと広い視野を持て。他に何が起きたのかを」とヒントを出す。

そして「お前の祖父は犯人ではない。人殺しをする人ではない」と言う。

まるで矢板と祖父は犯人は知っているが我々は直接は手を下さず仕方なく見てみぬ振りをしただけだ、とも匂わせる言い方をする。

著者が「祖父の英文日記に犯人が書いてあった」と言うととても驚き「俺達関係者が生きている間は公表するな。ここで約束しろ」と強引に迫る。

1年後再びインタビューを試みるがその直前に脳梗塞で倒れたことを知る。

一命を取り留めるもボケも始まりその後亡くなる。


矢板玄は写真で見たがそれでも存在感が伝わってくる。

角栄に近いオーラを感じた。

根っからの親分肌なんだろう。

矢板の経営する「亜細亜産業」は戦後の典型的な右寄り思想の闇取引業者のようで元社員の証言で児玉誉士夫、笹川良一などが出入りした。

床下に金の延べ棒があったりとかなり派手に動き回っていたようだ。

当時の右翼集団の力を見せつけるエピソードとして建国記念日を2月11日以外は認めない、と政治家に電話一本しただけだが絶対決まると豪語するシーンがある(建国記念日だけは例外的にハッピーマンデーにならない理由が分かった)。


この事件を簡単に言えば「みんな下山が邪魔だった」、ということになる。

スケールは違うが落合信彦の本のケネディ暗殺の構造に似ていると思った。

本によると犯人はCIA・KGB・マフィア・軍産複合体・ニクソンと360度、みんなに嫌われ殺されたことになっている(しかし本国では最近オズワルドが有力らしい)。

ケネディ暗殺はみんなで計画したが下山は水野を中心とした一部が暴走しあとで周りが庇った、という構造らしい。

現代でいえばNTTやトヨタの社長が暗殺されたようなものか。

いや、もっとスケールがでかいかもしれない。

当時はこんなことが簡単に行われていたのだ。


本作品を語る上で欠かせないのが森達也、諸永祐司、両氏だ。

小生はまず森達也の「下山事件」の本を読む。

そして「取材協力者S」というのが出てきたと記憶しているがそれが本作品の著者である。

時間の流れからいうと著者が収集した情報を森がまとめる。

週刊文春に掲載する予定で朝日新聞社の諸永が加わる。

諸永は掲載したがるが森は不明瞭なところが多いということで掲載を拒否する。

上司から突っつかれている諸永は我慢しきれず自分の名前で掲載を始める。

その後、森は仕方なく見切り発車で発行する。

従って森の本を読むとやはり中途半端感の消化不良はいがめない。

確か最後は強引に森の説として小説形式で事件を再現し、亜細亜産業が中心に実行したとなっていたと記憶している。

そして満を持して著者が発行する。

つまり基ネタは同じなのだ。

森が諸永をあたかも事実のように書くのはジャーナリストとしてよくないと批判する箇所があるが、本作品でも著者が森が本の中で嘘をついていると証拠の写真を載せて批判しているのが興味深い。

こうなると誰を信じていいのか分からなくなる。


ただ本作品は「ほぼ全容を解明したと思っている」と言っておきながら犯人名は「M」としている。

その理由として「まだ完全に自信がない」という。

そして本作品に「何回も登場している人物」としており小生が読み直し多分「水野」だろうと推測した。


まあ、結局は関係者が全員死んでいるのだから真実は闇の中だろう。

他殺説が有力だが自殺説も完全否定するには至っていないらしい。

松本清張があの時代に果敢に挑んだのは勇気がいると思う。

殺される可能性もあったのでは。

でも何もなかったのだからアメリカ情報機関説は間違っていたということかもしれない。


そして本作品を読んで考えさせられたのはアメリカにおける軍需産業の存在身勝手な野望だ。

結局は下山事件を含めあらゆる戦争は金儲けと世界征服の一環だったのだ。


同じ一個を売るなら聖書より戦闘機のほうが儲かるかる。

そして儲けたお金を大統領に大量に寄付する。

そうなりゃ、軍需産業にえこ贔屓せざるを得ない。

そして第2次世界大戦、冷戦、ベトナム戦争、イラク戦争と無益な戦争が行われる。。。


みんな勉強したドッジ・ラインの1ドル=360円も根拠は理屈に基づくものではない。

単に安値で他国の鉄道を乗っ取るために為替操作しただけだ。

それに散々下山に合理化を命令する。

綺麗に掃除させたあと自分のものにする。

日本に餅をついてこねさせ、アメリカがそれを食べる。

つまりやっていることは暴力団の親分が子分に汚れ役をやらせ自分は手を汚さない、のと同じだ。


土足で堂々としようとしたアメリカ。

しかし今でもアメリカ経済の基幹産業は軍需産業だ。

この構造を変えなければ戦争ないし戦争状態は続くのだろう。。。