大正生まれで
戦争を経験して
戦後の復興時期には
おそらく……
一番の働き手となった世代。
男尊女卑の激しい時代の中で
田舎の偏った風習も合わさってしまい
相当な厳しい環境の下で
慎ましく、たくましく
生きて来たせいなのか、、、
僕の母は
ばあちゃんのことを
とても怖かったと言っていた。
僕には穏やで
いつも優しかったので
その姿からは
想像も出来ない程の
苦難を乗り越えて
この国の定めた
身勝手な女性像に従い
疑うことなく生きてきたのだろう……。
贅沢は何もしないし
出しゃばったりもしない。
先祖を敬い
主人を立てて
自分のことは後回し。
質素な食事と
簡素な服装で
自分にも
子供にも厳しく
日々を切り盛りして
賄い続けた
おばあちゃん。
幼いころから
ばあちゃんだったのに
僕にとっては
未だにそのままの
ばあちゃんで在り続けていた。
僕が学校を辞める時に
じいちゃんは白血病で
入院していた。
お見舞いに行ったら
「そげなことを
じいちゃんに言ったらいかんよ!」
と厳しく言われたので
隠したままの僕は
そのまま嘘つきになってしまった。
将来が有望な
自慢の孫だと
強引に設定されたまま
じいちゃんは信じたままで?
亡くなってしまったので
僕はいつも
罪悪感があった。
あれから30年が経ち
その罪滅ぼしのように
定期的に墓参りへ向かい
ばあちゃんにも
顔を出していた。
「なんもいらんよ!」
「まこて、こげんも
なご生きてしもっせ
ほんのこて、
げんなかこっじゃが……」
………
自虐でも謙遜でもなく
気の利いた社交辞令でもない。
その偽りのない言葉を
何度も何度も聞いては
返す言葉を失ったまま
僕はただ
いつも苦笑いをするだけだった。
家族旅行に誘ったら
満面の笑みで
喜んでくれただろうか?
高級ホテルの
豪華な食事に招待したら
涙して感動してくれただろうか?
………
ばあちゃんが
まだ元気だった頃に
「どっか行きたい所って、ないの?」
って聞いたことがある。
戦時中に疎開で行った
霧島神宮の麓に
「まいっどどま
行ってみろごちゃっ!」
って笑っていた。
温泉旅行とか
海外旅行とか
ショッピングや
グルメ探索でもなく
何ゆえに、
戦時中に訪れた
疎開の地だったのか?
その真意を聞くこともなく
ばあちゃんは
95歳で亡くなった。
ばあちゃんの人生は
楽しかったのだろうか?
スマホのアプリで楽しまなくとも
何か好きな事とか
趣味とか何かで
楽しんだのだろうか?
じいちゃんが亡くなってから
30年余り………
例えば
パチンコでスリルを味わったり
カラオケで思いっ切り発散したり
時には誰かと恋に落ちて
浮気や不倫の一つや二つ…
刺激的な楽しみなんて
何も無かったのだろうか?
それなら
オレがこの人生を
ばあちゃんの分まで
贅沢に豊かに楽しむぞ!
……なんて
つもりはないけれど
何か
やるせない気分になってしまった。
身勝手な風習や
偏ったしきたりに従い続けて
質素に簡素に生きて来たから
その報酬は
長生きだったのだろうか?
じいちゃんが亡くなってから
30年あまり…
僕は好き勝手に生きて来たのに
ばあちゃんは毎朝
一番先に
仏壇に向かい
神や仏に仕えるように
慎ましく生きて来た。
その結果は
数年前から痴呆症と診断されて
地元の名の通る施設に入り
高額な費用を払い続けて
車椅子の生活を送っていた。
母がお見舞いに行った時には
何かを訴えるように
激しく、強く、
「まこて、はがいかもんじゃ!」
と叫ぶこともあったらしい。
生きる事とは何なのか?
死ぬ事とは何なのだろうか?
あの世では
本当の
ばあちゃんらしい
本来の姿となって
この世から解放されて
笑顔で穏やかな日々となり
幸せな環境に
恵まれているのかな?
この間は、、、
叔父さんが先に逝ったけど
ばあちゃんには黙っていたこと
バレてしまって怒っていないかな?
それとも
親よりも先に逝ってしまった
叔父さんが
ばあちゃんに見つかって
怒られてるのかな?
・・・・
この豊かで平等で平和な社会は
一体、誰のためにあるのだろうか?
この便利で効率的でエコで
完璧な管理体制の華やかな
輝かしい日々は
一体、誰が満足して納得して
喜んでいるのだろうか?
俺、 私、 僕、 貴方……
95年間、止まらなかった心臓と
どんな環境下でも
生き延びて来た強運は
誰の意見も法則も
霞んでしまうぐらいに
神秘的で凄すぎる!
人間の不思議と
自然の叡智と営みで
あなたの遺伝子が
私の何処かにも受け継がれている。
私の命をありがとう!
あなたの存在のお陰で
私は誕生して
私には娘も生まれて
お転婆のままで育っています!
あなたの遺伝子は
妹にも
親戚の○○にも
甥っ子姪っ子にも受け継がれて
大切に生き永らえております。
あなたのように
強靭にたくましく
長生きするかは分かりませんが…
子孫一同、家族も私も
あなたの人生を称えて感謝しながら
これからもこのままで
生きることをお許し下さい。
本当に
本当に
ありがとうございました!
合掌