素晴らしかった、
尾上菊之助丈の「京鹿子娘道成寺」。
大輪の花の素質に加えて、
気持ちの面での深まりを感じた舞台でした。
菊之助丈の昨今の舞台を振り返り⋅⋅⋅
(私が観劇したものだけです。)
これまで、子役時代はさておき、
大人になった菊之助丈を初めて見たのは、
2009年6月、新橋演舞場での
「NINAGAWA 十二夜」でした。
シェイクスピアの「十二夜」を元にした、
蜷川幸雄氏による新作歌舞伎。
琵琶姫・獅子丸という
双子の兄妹の2役を演じました。
嵐の海上の難破船の上、
琵琶姫と獅子丸の早替り。
女方、立役どちらも美しい。
そしてそのときは、
菊之助丈自身が
早替りを楽しんでいるように見えました。
行方知れずになった兄、獅子丸を探すため、
獅子丸の姿になり、
男性として小姓勤めをする琵琶姫。
(男性である歌舞伎役者が、
男装姿の女性を演じるという、
混乱しそうな設定です。)
そうするうち、
主人大篠左大臣に思いを寄せるようになり⋅⋅⋅
小姓姿で思い悩む、倒錯的な姿が印象的でした。
⋅⋅⋅しかしあくまでも清らかで、
嫌らしさなどは少しも感じませんでした。
舞台の上で、女性と男性の間を
自由に行き来できる、
そんな魅力が菊之助丈には備わっています。
こういった役では他に、
2010年11月「都鳥廓白浪」、
傾城花子実は吉田松若丸。
私は見ていないのですが、
「弁天娘女男白浪」の弁天小僧。
「三人吉三」のお嬢吉三など。
そして、女方の王道と言える役々。
2010年3月「女暫」女鯰若菜
2010年12月「摂州合邦辻」玉手御前
⋅⋅⋅義理の子(元主家の子)を思う
気持ちの強さが鮮烈でした。
2012年12月「籠釣瓶花街酔醒」八ツ橋
2013年3月「妹背山婦女庭訓」お三輪
2013年7月「加賀見山再岩藤」
愛妾お柳の方・二代目中老尾上
2015年9月「競伊勢物語」娘信夫・井筒姫
⋅⋅⋅信夫の色っぽく生き生きとしていること、
殺されなければいけない運命の哀れさ。
死んだ信夫の魂を救うような、井筒姫の神々しさ。
2016年3月「女戻駕」浪花屋おきく
2016年5月「菅原伝授手習鑑ー寺子屋」千代
⋅⋅⋅亡くした子を思う母性の強さ。
祖父梅幸を彷彿とさせました。
2016年10月「浮塒鴎」女猿曳
2016年11月「仮名手本忠臣蔵ー道行、六段目」 おかる
2017年5月「吉野山」静御前
2017年9月「彦山権現誓助剱」お園
2019年5月「京鹿子娘道成寺」白拍子花子
立役の数々。
2012年4月 「仮名手本忠臣蔵」塩冶判官
⋅⋅⋅父菊五郎の若い頃に、はっとするほどそっくり。
2012年7月 「義経千本桜ー鳥居前」源九郎狐
⋅⋅⋅荒事に挑戦するというのに驚き。
2013年4月 「弁天娘女男白浪」浜松屋宗之助
2015年11月「新皿屋舗月雨暈」魚屋宗五郎
⋅⋅⋅演じていること、手順は間違いないのでしょうが、
端正な菊之助と酒癖の悪い宗五郎のギャップが。
2016年5月 「十六夜清心」清心
2017年2月 「四千両小判梅葉」寺島無宿長太郎
⋅⋅⋅父菊五郎の主人公富蔵とともに、
むさ苦しい牢内を取り仕切る囚人。
怜悧な面が生きていました。
2017年3月 「伊賀越道中双六」和田志津馬
2017年5月 「梶原平三誉石切」奴菊平
2017年7月 「一條大蔵譚」一條大蔵卿
⋅⋅⋅持ち味の端正さと、
役の作り阿呆が不思議なバランスでした。
2018年1月 「世界花小栗判官」小栗判官
⋅⋅⋅輝くばかりに美しい貴公子。
2018年6月 「六歌仙容彩」文屋康秀
「酔菩提悟道野晒」男伊達浮世戸平
2018年7月 「曽我綉侠御所染」御所五郎蔵
「高杯」次郎冠者
2018年12月「増補双級巴」真柴久吉
2019年2月 「義経千本桜ーすし屋」
弥助実は三位中将維盛
⋅⋅⋅子の六代君への愛情が見てとれる、
父性あふれる印象。
他の方のこの役では、
そんなふうに感じたことはありませんでしたが。
2019年5月 「絵本牛若丸」弁慶
こうして見ると近年、
立役に比重が移っているようです。
いずれは、大名跡菊五郎を継ぐ身として、
避けては通れないのでしょうが。
岳父吉右衛門に教えを受けて、
「碇知盛」、「関の扉」の黒主など、
全くニンにないと思われる役を演じたのも、
驚きました。
これからどんな役を演じるのか、
これまで演じた役をどう深めるのか、
本当に楽しみ。